夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
「百香ちゃん、飲んでいた途中だったでしょ。これは私の奢りよ。といっても、怪我をしたからグレープジュースね」
「真奈さん、そんな、私が余計なことをしたから騒ぎになったのに!」
「そんなことないわよ。ありがとう。先生もありがとうございました。今日のお会計は──」
「受け取らないとかいわないでくださいよ。そんなことをされたら、ここへ飲みに来るのに気が引けてしまう。それより、トラブルの際は私をご指名ください」

 そういった渉さんが飲みかけのウィスキーグラスを手に取ると、真奈さんは頭を深く下げて「ありがとうございます」と重ねていった。

「じゃあ、その一杯を飲んだら帰るろうか。百香ちゃん、送っていくよ」
「え、でも……」
「さっきの男が待ち伏せしているとも限らない。心配だから、送らせて」

 そういって、残っていたウィスキーを飲み干した渉さんは、真奈さんにタクシーを呼ぶよう頼んだ。
 薬箱を手にした真奈さんが席を外すと、タイミングを同じくして、お客さんが来店した。

 さっきまでの喧騒が嘘だったように、小さなバーは穏やかなピアノジャズとお客さんの談笑に満たされた。
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