夜明けが世界を染めるころ
後日談③

セナside
数日後

第3騎士団・副団長室

「……」

「…………」

「………………」

俺は、机に並べられた報告書を前に、微動だにせず座っていた。

1枚。

2枚。

3枚。

すべて目を通し、指で頁を整えてから――

「……合法だな」

淡々と、事実だけを口にする。

訓練名目:問題なし
責任者:第三騎士団副団長 セナ
承認印:第一王子 ディラン
制限刻印:有
魔力記録:基準値内
負傷者:なし

「規則違反、なし」
「虚偽申請、なし」
「監督体制、過剰なくらい十分」

静かに息を吐いた。

「……どこにも問題はない」

――書類上は。

視線を落とした先。

添付された陣形図。

前衛三名。
後衛二名。
拘束役一名。

「……」

指で額を押さえる。

「中身が完全に包囲殲滅戦だ」

声は低く、冷静だった。

「新人、重騎士、元騎士団、補助適性者……」

図をなぞりながら、淡々と分析する。

「戦場想定としては理想的。
 対個人制圧訓練としては、満点だな」

一拍。

「……訓練相手が俺はでなければ、だが」

ページをめくる。

《備考:副団長は魔力制御能力が極めて高く、
    複数宝石の同時観測対象として最適》

「理屈はわかる」

頷く。

「確かに適任だ。理論上は」

そして静かに付け足す。

「精神的負荷の項目が、完全に抜け落ちているがな」

そこへ、ノック。

「副団長……」

「どうした」

「例の件、噂になっていまして」

「……何の噂だ」

「“6人がかりで副団長を倒した訓練”と」

深くため息を吐く。

(殿下は平然と判を押す)

(ティアナ様は規則を一行も破らない)

(結果だけを完璧に通す)

「……止められるわけがない」

書類を閉じ、背もたれに体を預ける。

「力で押したわけじゃない。
 理屈で潰しに来ている」

そして小さく、苦笑した。

「厄介な主君を持ったものだ」

だが、その口調に不満はない。

剣技ではない。
魔力量でもない。

人を見て、役割を決め、信じて任せる力。


「……強くなったな」

ぽつりと零す。

守られる側から、導く側へ。

確実に、彼女は歩みを進めていた。

俺は報告書の末尾に、淡々と追記する。

《今後、同様の訓練は監督人数を倍とすること》
《副団長を対象とする場合、事前通達を義務化》

ペンを置く。

「……まったく」

小さく息を吐き、窓の外を見た。

「守るというのは」

「どうやら、頭を抱える役を引き受けることらしい」

その背中を思い浮かべながら。
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