夜明けが世界を染めるころ
「違うな」
「――決して、主人を【裏切らない】ことだ」
その言葉は、
まるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃だった。
空気が一瞬、凍りついた気がした。
意味は分かる。だが、理解できるほど、私はまだ大人ではなかった。
裏切らない。
それは、命令に逆らわないという意味なのか。
秘密を守るということなのか。
それとも――主人のためなら、何かを切り捨てろということなのか。
13歳の私には、そのすべてが重すぎた。
それでも、私は唇を噛みしめ、俯かなかった。
ここで怯えれば、この言葉に耐えられない者だと判断される。
なぜか、そう確信していた。
「……はい」
喉がわずかに震えたが、それ以上は崩さない。
男は、じっと私を見下ろしていた。
「覚えておけ、ユウリ。
裏切りとは、剣を向けることだけではない」
その一言が、胸の奥深くに沈んでいく。
理解できないまま、しかし決して忘れてはならない言葉として。
――後になって、何度も思い知らされることになる。
あの日聞いたその言葉が、
私の選択すべてを縛り、導き、そして試し続けるのだと。
「私には子どもが2人いる。
1人目は長男、マルク。
そして2人目が、長女のティアナだ」
淡々と告げられる言葉に、私は静かに耳を傾けた。
「まずはマルクに5日間ついてもらう。
その後、休日を挟んで、今度はティアナにつけ。
それから――どちらの執事になりたいか、自分で決めてくれ」
一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
「もし、どちらの執事にもなりたくなければ、
その場合も遠慮なく申すように」
……自分で、決めろ?
胸の奥がざわつく。
本来、仕える相手を決めるのは主人のはずだ。
ましてや、私はまだ13歳だ。
選ぶ立場に立たされるなど、考えたこともなかった。
けれど、その疑問を口に出す空気ではない。
この場で問えば、それだけで“資質がない”と判断される気がした。
「……わかりました」
私は一度だけ深く頭を下げる。
「よろしくお願いいたします」
それ以上の言葉は求められていない。
そう察し、私は静かに退室した。
廊下に出た瞬間、張り詰めていた息を、ようやく吐き出す。
聞きたいことは山ほどあった。
なぜ選ばせるのか。
なぜ、祖父はあんな言葉を残したのか。
そして何より――
この選択が、何を意味するのか。
まだ知らない。
だが直感だけは告げていた。
この5日間と、その次の時間が、
自分の人生を決定的に分けるものになるのだと。
「――決して、主人を【裏切らない】ことだ」
その言葉は、
まるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃だった。
空気が一瞬、凍りついた気がした。
意味は分かる。だが、理解できるほど、私はまだ大人ではなかった。
裏切らない。
それは、命令に逆らわないという意味なのか。
秘密を守るということなのか。
それとも――主人のためなら、何かを切り捨てろということなのか。
13歳の私には、そのすべてが重すぎた。
それでも、私は唇を噛みしめ、俯かなかった。
ここで怯えれば、この言葉に耐えられない者だと判断される。
なぜか、そう確信していた。
「……はい」
喉がわずかに震えたが、それ以上は崩さない。
男は、じっと私を見下ろしていた。
「覚えておけ、ユウリ。
裏切りとは、剣を向けることだけではない」
その一言が、胸の奥深くに沈んでいく。
理解できないまま、しかし決して忘れてはならない言葉として。
――後になって、何度も思い知らされることになる。
あの日聞いたその言葉が、
私の選択すべてを縛り、導き、そして試し続けるのだと。
「私には子どもが2人いる。
1人目は長男、マルク。
そして2人目が、長女のティアナだ」
淡々と告げられる言葉に、私は静かに耳を傾けた。
「まずはマルクに5日間ついてもらう。
その後、休日を挟んで、今度はティアナにつけ。
それから――どちらの執事になりたいか、自分で決めてくれ」
一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
「もし、どちらの執事にもなりたくなければ、
その場合も遠慮なく申すように」
……自分で、決めろ?
胸の奥がざわつく。
本来、仕える相手を決めるのは主人のはずだ。
ましてや、私はまだ13歳だ。
選ぶ立場に立たされるなど、考えたこともなかった。
けれど、その疑問を口に出す空気ではない。
この場で問えば、それだけで“資質がない”と判断される気がした。
「……わかりました」
私は一度だけ深く頭を下げる。
「よろしくお願いいたします」
それ以上の言葉は求められていない。
そう察し、私は静かに退室した。
廊下に出た瞬間、張り詰めていた息を、ようやく吐き出す。
聞きたいことは山ほどあった。
なぜ選ばせるのか。
なぜ、祖父はあんな言葉を残したのか。
そして何より――
この選択が、何を意味するのか。
まだ知らない。
だが直感だけは告げていた。
この5日間と、その次の時間が、
自分の人生を決定的に分けるものになるのだと。