夜明けが世界を染めるころ
目の前にいるのは、銀髪に切れ長の瞳。
容姿端麗で、剣の腕も立つ――誰からも信頼されるセナ副団長。
この人は――
お嬢様に捨てられるかもしれない、なんて不安を、きっと一度も抱いたことがないのだろう。
――いいな。
もし俺がこの人を倒せば、
この胸のざわつきも、焦りも、嫉妬も。
全部、消えるのだろうか。
覚悟を決め、足を踏み込む。
本気で向かう。
少しくらい怪我をさせても……平気、だよな。
俺は小さく息を吸い、魔宝剣を強く握りしめた。
「紅く、鋭く――
我が想いに応えよ、スピネル」
その言葉に呼応するように、
鍔元の赤い宝石が強く脈打つ。
深紅の魔力が刀身を染め上げた。
燃え盛る感情そのものが刃となり、
胸に渦巻く迷いと恐怖を焼き切っていく。
――守りたい。
捨てられたくない。
置いていかれたくない。
そのすべてが、一振りの剣へと収束する。
踏み込みと同時に、風が炸裂した。
指先から解き放たれた魔力は、
見えない刃となって空気を切り裂き、
一直線にセナ副団長へと襲いかかる。
瞬時に氷が展開される。
鋭い衝突音。
金属ではない、冷え切った空気同士がぶつかり合う音――
紅と氷、2つの魔力が激しくせめぎ合った。
セナ副団長を傷つければ、お嬢様が悲しむ。
その思考が、一瞬だけ剣を鈍らせる。
そのとき――
「なにしてるの?」
高く澄んだ声が、2人の間合いを切り裂いた。
はっとして顔を上げる。
そこに立っていたのは、
間違いなく――お嬢さまだった。
騎士たちが止めに入るよりも早く、
お嬢さま自身が、迷いなく2人の間に踏み出している。
「魔宝剣を使った模擬戦は、報告が必要よ」
その一言で、
刀身を染めていた深紅の魔力が揺らいだ。
――ああ、やっぱり俺は、まだ子供だ。
焦りと嫉妬に突き動かされ、
本気で斬り結ぶ覚悟をしたはずなのに。
お嬢さまがそこに立つだけで、
心は簡単に乱れてしまう。
お嬢さまは怒りも責めもしない。
ただ静かに、諭すように言った。
「やめなさい。2人とも。
そんなことをする理由なんて、ないでしょう?」
「申し訳ありません」
セナ副団長は短く答え、深く頭を下げる。
――そうだ。
理由なんて、どこにもない。
勝っても、何も手に入らない。
守りたい、そばにいたいという想いは、
誰かを傷つけて証明するものじゃない。
深紅の輝きが、ゆっくりと霧散していく。
紅の刃も、氷の壁も、跡形もなく消えた。
俺は荒い息を整え、顔を上げる。
お嬢さまの眼差しを受けて、
胸のざわつきが、ほんの少しだけ静まっていった。
――守りたいのは、剣で勝つことじゃない。
そばにいることだ。
けれど、もしそれを望まれなかったら?
俺は……捨てられるのか。
こわい。
「……お嬢さま、ごめん」
それだけを残し、
俺は逃げるように背を向けた。
容姿端麗で、剣の腕も立つ――誰からも信頼されるセナ副団長。
この人は――
お嬢様に捨てられるかもしれない、なんて不安を、きっと一度も抱いたことがないのだろう。
――いいな。
もし俺がこの人を倒せば、
この胸のざわつきも、焦りも、嫉妬も。
全部、消えるのだろうか。
覚悟を決め、足を踏み込む。
本気で向かう。
少しくらい怪我をさせても……平気、だよな。
俺は小さく息を吸い、魔宝剣を強く握りしめた。
「紅く、鋭く――
我が想いに応えよ、スピネル」
その言葉に呼応するように、
鍔元の赤い宝石が強く脈打つ。
深紅の魔力が刀身を染め上げた。
燃え盛る感情そのものが刃となり、
胸に渦巻く迷いと恐怖を焼き切っていく。
――守りたい。
捨てられたくない。
置いていかれたくない。
そのすべてが、一振りの剣へと収束する。
踏み込みと同時に、風が炸裂した。
指先から解き放たれた魔力は、
見えない刃となって空気を切り裂き、
一直線にセナ副団長へと襲いかかる。
瞬時に氷が展開される。
鋭い衝突音。
金属ではない、冷え切った空気同士がぶつかり合う音――
紅と氷、2つの魔力が激しくせめぎ合った。
セナ副団長を傷つければ、お嬢様が悲しむ。
その思考が、一瞬だけ剣を鈍らせる。
そのとき――
「なにしてるの?」
高く澄んだ声が、2人の間合いを切り裂いた。
はっとして顔を上げる。
そこに立っていたのは、
間違いなく――お嬢さまだった。
騎士たちが止めに入るよりも早く、
お嬢さま自身が、迷いなく2人の間に踏み出している。
「魔宝剣を使った模擬戦は、報告が必要よ」
その一言で、
刀身を染めていた深紅の魔力が揺らいだ。
――ああ、やっぱり俺は、まだ子供だ。
焦りと嫉妬に突き動かされ、
本気で斬り結ぶ覚悟をしたはずなのに。
お嬢さまがそこに立つだけで、
心は簡単に乱れてしまう。
お嬢さまは怒りも責めもしない。
ただ静かに、諭すように言った。
「やめなさい。2人とも。
そんなことをする理由なんて、ないでしょう?」
「申し訳ありません」
セナ副団長は短く答え、深く頭を下げる。
――そうだ。
理由なんて、どこにもない。
勝っても、何も手に入らない。
守りたい、そばにいたいという想いは、
誰かを傷つけて証明するものじゃない。
深紅の輝きが、ゆっくりと霧散していく。
紅の刃も、氷の壁も、跡形もなく消えた。
俺は荒い息を整え、顔を上げる。
お嬢さまの眼差しを受けて、
胸のざわつきが、ほんの少しだけ静まっていった。
――守りたいのは、剣で勝つことじゃない。
そばにいることだ。
けれど、もしそれを望まれなかったら?
俺は……捨てられるのか。
こわい。
「……お嬢さま、ごめん」
それだけを残し、
俺は逃げるように背を向けた。