夜明けが世界を染めるころ
セナside

――しかし、さっきのテオは、まるで血に飢えた狼のようだった。
あれでは、昔に逆戻りだ。

正直、危なかった。
真剣が腕をかすめ、じわりと血が滲む。
……この程度で済んで、本当に良かった。

俺が何を言ったところで、今のテオの耳には届かないだろう。
あいつは昔からそうだ。追い詰められると、視野が極端に狭くなる。

――お嬢様のこととなると、尚更だ。

それにしても……まさか、お嬢様がお見合いとはな。
いつかは結婚する立場だと、頭では理解していた。
だが、胸は少しも平穏じゃない。

理由は、わかっている。
わかっているからこそ――口にしてはいけない。
これは、秘めておくべき感情だ。

蝶の会に出席し、あの“謎の男”と話してから、
お嬢様はどこか変わった。

何かを伝えようとして、言葉を飲み込んでいる。
俺に話すべきか、悩んでいるようにも見える。

無理に聞くつもりはない。
それでも――心配は、してしまう。
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