夜明けが世界を染めるころ
フワーッと、風が吹き、被っていた帽子がふわりと飛んでいく。
追いかけようと立ち上がったその瞬間――

帽子を綺麗にキャッチしてくれた人物がいた。

「おや、こんな所で会えるとは。久しぶりですね、ティアナ嬢」

眩しいほどの金髪、整った顔立ち。
まさか、こんな場所で出会うとは思わなかった。

「ディラン殿下、ごきげんよう」

「今日も綺麗だね、はい、帽子」

さっと頭に帽子を戻される。
その褒め言葉を、薄っぺらいと感じてしまう自分に少し苛立ちも混じる。

「ありがとうございます」

「……そんな、苦虫を噛んだような顔でお礼を言われるのは、新鮮だな」

目の前のディラン殿下は、いつも通り楽しそうに笑っている。
彼の笑顔には、どうも素直に返す気になれない自分がいる。

「ところで、こちらには何をしにいらしたのですか?」

「あ、実はね――」

その時、後ろから元気な声が飛び込んだ。

「お嬢さーん、帽子、大丈夫でした?あれ?誰ですか?」

レオがキョトンとした顔でこちらを見ている。

「レオ、そちらは――双輝アレキサンドライト王国 第一王子のディラン殿下ですよ」

ユウリが横から静かに補足する。
レオはさらに目を丸くし、口を開きかけては閉じる。

――状況が、一気に非日常に変わった。
湖畔の穏やかな時間に、思わぬ光が差し込む瞬間だった。
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