夜明けが世界を染めるころ
ディランに連絡を取る。

呼び出し音は、ほとんど鳴らなかった。
すぐに、繋がる。

『――別れたばかりなのに、もう連絡してくれるとは嬉しいね』

楽しそうな声。
まるで、何事もなかったかのように。

……こっちは、それどころじゃない。

「ディラン。」

声が、自然と低くなる。

「話があります。」

一瞬の沈黙。
画面越しでも分かるほど、空気が変わった。

『……なにかな』

私の表情を悟ったのだろう。
ふざけた調子は消えていた。

「ナタリーさんのこと。
何か、知っていますね。」

はっきり言うと、ディランは小さく息を吐いた。

『……そのことか。』

否定はしなかった。

『知ってるよ。』

胸が、強く脈打つ。

「教えてください。」

間髪入れずに言った。
逃げ道を与えないために。

ディランは少しだけ黙り、それから静かに答えた。

『……わかった。』

そして、続けて。

『すぐ迎えに行く。』

その言葉に、ぞくりとする。

ナタリーさんは本当に死んだのか。
それとも――生きているのか。

ディランは、どこまで知っていて、どこまで関わっているのか。


屋敷の前に、ほんの数時間前に乗っていた馬車が止まった。

静かすぎるほど、音もなく。
まるで最初から、ここに来ることを織り込み済みだったかのように。

扉が開く。

先に降り立ったのは、ディランだった。

「……久しぶり、って言うほど時間は経ってないね。」

軽い口調。
別れた直後と変わらない笑み。
けれど、その目は――私の反応を一瞬も逃さない。

私は一歩も動かず、真正面から見据えた。

「迎えに来るの、早すぎるわ。」

「君が“本気”で呼んだ時は、遅れない主義なんだ。」

その言葉に、胸がわずかに締めつけられる。

背後で、ユウリが一歩前に出た。
自然な動きだが、完全に私を庇う位置。

ディランはそれに気づき、視線だけを向けた。

「……警戒されてるね。」

「当然です。」
ユウリの声は低く、隙がない。

「ナタリー様の件について、説明を。」

ディランは肩をすくめ、視線を私に戻した。

「ここで話す?」

一瞬、沈黙。

屋敷の門。
人目のある場所。
そして、逃げ場のない距離。

「……いいえ。」

私は答えた。

「あなたの馬車で聞くわ。」

ディランの口元が、わずかに歪む。

「覚悟はいいかい?」

「もうとっくにできてる」

数秒、互いに視線を外さない。
まるで、どちらが先に引くかを測るように。

やがてディランは、ゆっくりと道を譲った。

「どうぞ、お姫様。」

その言葉に、皮肉と……ほんのわずかな安堵が混じっていたのを、私は見逃さなかった。
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