夜明けが世界を染めるころ
静かな沈黙のまま、
馬車がゆっくりと止まった。
「……ここは?」
「もう一つの隠れ家だよ。」
何でもないように言うディランに、思わず聞き返す。
「いくつあるんですか?」
「うーん……10数個はあるね。」
「……さすが王族だわ。」
ディランは肩をすくめ、扉を示した。
「こっちだ。」
扉の前で、軽く拳を当てる。
「コンコン。……入るよ。」
中へ足を踏み入れた瞬間、
私は息を呑んだ。
――ナタリーさん。
姿勢よく椅子に座り、本を読んでいる。
あの日と変わらない、穏やかな横顔。
「……ナタリーさん……」
その声に、彼女は顔を上げ、目を丸くした。
「……お嬢様……」
次の瞬間、私は駆け寄っていた。
言葉より先に、腕が伸びる。
ナタリーさんと、強く抱き合う。
「気づくのが遅くなって、ごめんなさい……」
胸に顔を埋めると、彼女は静かに頭を撫でた。
「いいのよ……。
私も、言うべきかずっと悩んでいたから。」
少しだけ、声が震える。
「気づかれないなら、その方がいいとも思っていたの。」
私は顔を上げる。
「でも……」
「ええ。」
ナタリーさんは、優しく微笑んだ。
「お嬢様が、真剣にアイリス様のことを知ろうとしているのを見て……
もう、誤魔化せないと思ったの。」
そして、静かに語り始める。
「あの施設ではね……
私は“監視”されていたの。」
背筋が凍る。
「アイリス様のことを、口にしないように。」
「だから……ボケたふりを?」
「ええ。」
私は思わず尋ねていた。
「それって……お父様の仕業ですか?」
ナタリーさんは、はっきりと首を振った。
「違うわ。」
その瞳は、迷いがなかった。
「アドルフ様は、アイリス様のことも、貴女のことも……
最後まで守ろうとしていた。」
胸が、きゅっと締めつけられる。
「じゃあ……誰が?」
ナタリーさんは、一呼吸置いてから、名前を告げた。
「ガイルよ。」
その名が、空気を切り裂く。
「ガイル・アレキサンドライト。」
そこにいるディラン殿下の叔父。
彼の表情が、硬くなる。
「彼は……」
ナタリーさんは、低い声で続けた。
「アイリス様の研究の、責任者でもあったの。」
その言葉は、静かで、しかし決定的だった。
――母の死は、
やはりただの事故ではなかった。
馬車がゆっくりと止まった。
「……ここは?」
「もう一つの隠れ家だよ。」
何でもないように言うディランに、思わず聞き返す。
「いくつあるんですか?」
「うーん……10数個はあるね。」
「……さすが王族だわ。」
ディランは肩をすくめ、扉を示した。
「こっちだ。」
扉の前で、軽く拳を当てる。
「コンコン。……入るよ。」
中へ足を踏み入れた瞬間、
私は息を呑んだ。
――ナタリーさん。
姿勢よく椅子に座り、本を読んでいる。
あの日と変わらない、穏やかな横顔。
「……ナタリーさん……」
その声に、彼女は顔を上げ、目を丸くした。
「……お嬢様……」
次の瞬間、私は駆け寄っていた。
言葉より先に、腕が伸びる。
ナタリーさんと、強く抱き合う。
「気づくのが遅くなって、ごめんなさい……」
胸に顔を埋めると、彼女は静かに頭を撫でた。
「いいのよ……。
私も、言うべきかずっと悩んでいたから。」
少しだけ、声が震える。
「気づかれないなら、その方がいいとも思っていたの。」
私は顔を上げる。
「でも……」
「ええ。」
ナタリーさんは、優しく微笑んだ。
「お嬢様が、真剣にアイリス様のことを知ろうとしているのを見て……
もう、誤魔化せないと思ったの。」
そして、静かに語り始める。
「あの施設ではね……
私は“監視”されていたの。」
背筋が凍る。
「アイリス様のことを、口にしないように。」
「だから……ボケたふりを?」
「ええ。」
私は思わず尋ねていた。
「それって……お父様の仕業ですか?」
ナタリーさんは、はっきりと首を振った。
「違うわ。」
その瞳は、迷いがなかった。
「アドルフ様は、アイリス様のことも、貴女のことも……
最後まで守ろうとしていた。」
胸が、きゅっと締めつけられる。
「じゃあ……誰が?」
ナタリーさんは、一呼吸置いてから、名前を告げた。
「ガイルよ。」
その名が、空気を切り裂く。
「ガイル・アレキサンドライト。」
そこにいるディラン殿下の叔父。
彼の表情が、硬くなる。
「彼は……」
ナタリーさんは、低い声で続けた。
「アイリス様の研究の、責任者でもあったの。」
その言葉は、静かで、しかし決定的だった。
――母の死は、
やはりただの事故ではなかった。