夜明けが世界を染めるころ
父は夜明けの絵画に目を向け、そして私たちへと視線を戻した。
私をまっすぐ見つめたまま、静かに口を開く。

「ティアナ……お前は、本当にアイリスによく似ている」

一瞬、胸が跳ねた。

「強く、聡明で、そして優しい子だ」

父の視線が、再び夜明けの絵画から私へと移る。

「だが……一つだけ、違うところがある」

私は息を詰め、言葉を待った。

「お前には、人を見る目がある」

ゆっくりと、噛みしめるように続ける。

「そして――人を惹きつける力がある」

その視線が一瞬、ディランへそれから扉の方をみてから私をみた。

「お前の生き様を見て、
共に戦おうと自ら選び、隣に立とうとする者がいる」

父の声には、わずかな誇りが滲んでいた。

「それが……決定的な違いだ」

私は思わず、目を伏せる。

「だから、だ」

父ははっきりと言う。

「お前なら、できる」

その一言が、胸の奥深くに落ちていった。

「父としては……止めたい」

それは、飾りのない正直な声だった。

「だが、当主として、そして――
アイリスを愛した者として」

一拍置いて、父は告げる。

「お前の選択を、尊重しよう」

胸が、大きく脈打つ。

「ありがとうございます……お父様」

ディランは深く一礼する。

「必ず、彼女を守ります」

父は短く頷いた。

「守るのは“彼女だけ”ではないぞ、殿下。
――この国の未来だ」

ディランの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

「承知しています」

夜明けの絵画とそこに置かれたアイリスの花が静かに光を受けていた。
まるで、母――アイリスが見守っているかのように。

父は最後に、静かに言った。

「ティアナ。
誇りに思う」

その瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、そっとほどけた。

「……ありがとうございます、お父様」

私は深く頭を下げる。

夜明けの絵画は、柔らかな光を受けて輝いている。
まるで、母が微笑んでいるかのようだった。

私は、人と共に立ち、未来を選ぶ者として。
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