夜明けが世界を染めるころ
ナナ嬢の別荘に到着すると、
中から使用人たちがすぐに駆け寄ってきた。

「こちらをどうぞ」

手際よくタオルを渡され、
次々と体を包まれる。

……その瞬間。

「ひっくしゅん!」

思い切り、くしゃみが出た。

「ティアナ、大丈夫か?」

ディランがすぐにこちらを見て、
心配そうに眉を寄せる。

「は、はい……大丈夫です」

全然説得力はないと思う。

「とりあえず、着替えましょう」

ナナ嬢がそう言って、
自分の部屋からワンピースを持ってきてくれた。

「私のでよろしければ、ですが」

差し出されたそれは、
淡い色合いで、布地も柔らかそうな――

(……なんてお上品)

思わず見入ってしまう。

「助かります。ありがとうございます」

「いえいえ。
風邪をひかれては大変ですもの」



着替えを終え、私はそっと扉を開けた。

「……お待たせしました」

広間に出た瞬間視線が広がる。
ナナ嬢のワンピースは、
淡い色合いで、胸元や裾の刺繍も控えめ。
動くたびに、布がやさしく揺れた。

(……落ち着かない)

視線を感じて、思わず裾をつまむ。

最初に反応したのは――

「……」

ディランだった。

一瞬、言葉を失ったように目を瞬かせ、
すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。

「……似合っている」

「……ありがとうございます」

短いやりとりなのに、なぜか胸がむずむずする。

その直後。

「……え?」

マルクが私を見て、固まった。

「な、なんだその格好」

「失礼ね」

「いや、そうじゃなくてだな……
普段と雰囲気が違うな」

「それ、褒めてる?」

「たぶん……?」

たぶん、とは。

ナナ嬢は満足そうに頷いた。

「よくお似合いですわ。
ティアナ様は、こういうお色も映えますのね」

「ありがとうございます……」

ますます居心地が悪い。

「それに比べて…」

「ん?」

マルクが振り返る。

……服が、変だ。

上はフリルのついたシャツ。
下はぴっちりとした半ズボン。

「……なに、その格好」

「いや! 俺もそう思うんだがな!?」

マルクは必死に言い訳する。

「上は“女性もので
下は“子供用だ!」

「ちぐはぐすぎます」

「俺だって好きで着てるわけじゃない!」

そこへ、ナナ嬢が申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい……
男性用はあまり置いていなくて……」

「い、いや! ナナ嬢が悪いわけじゃない!」

慌ててフォローするマルク。
だが、動いた拍子に――

びりっ。

「……」

「……今、音した?」

「し、してない! してないから!」

明らかに怪しい。

ディランは一連の様子を黙って見ていたが、
ふっと視線を逸らし、口元を押さえた。

「……ディラン、笑いました?」

「気のせいだよ」

「絶対笑った!」

私は思わず吹き出してしまい、
慌てて口を押さえる。
するとナナ嬢もクスクスと笑う。

「ご、ごめんなさい……」

「いいんだ……笑ってくれ……
もう……」

こうして別荘には、
ようやく本当の意味で、
緊張が解けた笑い声が戻ってきたのだった。
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