夜明けが世界を染めるころ
コホン。
マルクが一度、咳払いをしてから口を開いた。
「あの、殿下……」
「ん?」
呼びかけに応じると、
彼は一歩下がり、深々と頭を下げた。
「先ほどは、助けていただきありがとうございました」
その姿に、少し拍子抜けする。
マルクという男は、もっと不器用で、
感情を言葉にしないタイプだと思っていた。
「助けたのは、君の妹だ」
そう告げると、彼は顔を上げて首を振る。
「ですが、光の魔力で手助けしてくださったと聞きました。
本当に、ありがとうございます」
「……そうか」
短く返すと、
彼はさらに言葉を続けた。
「それと……リチャードの件も。
片付けてくださって、ありがとうございます」
「あれは、ティアナのためだ。
それに、あいつは野放しにしておけない人間だった」
事実を述べただけのつもりだったが、
マルクは一瞬、唇を噛みしめた。
「それでも……」
声が、わずかに低くなる。
「知り合いの令嬢が被害に遭っていたのに、
俺は、何もできなかった。
だから……ありがとうございました」
再び、深々と頭を下げる。
……なるほど。
予想外だが、
この男は、自分の無力さをちゃんと認められる人間らしい。
「気にすることはない」
そういうと顔をあげ安堵しているマルクに
「君は一応、ティアナの兄だからね。
――そして、いずれは私の義理の兄になる」
そう告げると、
マルクは一瞬、言葉を失った。
「……ご冗談を」
「冗談に聞こえるかい?」
静かに問い返す。
「私は、ティアナを逃がすつもりはないよ」
口元を歪めて、軽く笑う。
自分でもわかるほど、声音は穏やかなのに、
意志だけがやけに重い。
その瞬間、
マルクの肩がびくりと跳ねた。
「……あなたが言うと、
妹を檻にでも入れて閉じ込めそうだな」
「それも、悪くないかもしれないね」
間を置かずに返すと、
「こわ!!」
即座に突っ込まれた。
……失礼な。
ちゃんと自由は与えるつもりだ。
ただし、
どこへ行くにしても、
何をするにしても、
必ず俺の視界の中に置くだけで。
それだけの話だ。
マルクはため息をつきながらも、
どこか諦めたような目でこちらを見る。
「……妹が選んだ相手が、
殿下でよかったのか、悪かったのか……」
「さてね」
肩をすくめる。