夜明けが世界を染めるころ
研究所の内部は、想像していたよりも整然としていた。
白い壁、磨き上げられた床。
薬品の匂いはあるが、不快なほどではない。
「こちらが、現在進めている魔導医療研究の区画です」
案内役の研究者が、にこやかに説明する。
「主に、魔力の循環を安定させる技術を――」
私は頷きながら話を聞いていた。
少なくとも表向きは、何の問題もない。
……はずだった。
一歩、足を踏み出した瞬間。
胸の奥が、きしりと軋んだ。
「……っ」
思わず、足が止まる。
「どうした?」
ディランの声が、すぐそばから聞こえた。
「いえ……」
そう答えかけて、言葉が詰まる。
違う。
これは、気のせいじゃない。
空気が、重い。
耳鳴りのような微かな振動が、頭の内側で響いている。
まるで、見えない糸で心臓を引かれているかのようだ。
「……胸が、少し」
そう言うのが精一杯だった。
ディランは、私の様子をじっと見つめる。
「無理はするな。少し休むか?」
「大丈夫です」
そう言って微笑む。
だが――私は、はっきりと感じた。
“呼ばれている”。
遠く、遠く。
声にならない悲鳴のようなものが、胸の奥に流れ込んでくる。
「……これは……」
指先が、冷たくなる。
「ティアナ?」
ディランが、私の手を強く握った。
その温もりで、かろうじて現実に繋ぎ止められる。
案内役の研究者は、気づいていないふりをして歩き続けていた。
だが、その背中が、わずかに強張ったのを私は見逃さなかった。
――ここは、間違いない。
この研究所は、
何かとてつもないものを隠している。
そしてその瞬間。
研究所のさらに右奥、誰もいないはずの場所で――
確かに、何かがこちらを認識した。
白い壁、磨き上げられた床。
薬品の匂いはあるが、不快なほどではない。
「こちらが、現在進めている魔導医療研究の区画です」
案内役の研究者が、にこやかに説明する。
「主に、魔力の循環を安定させる技術を――」
私は頷きながら話を聞いていた。
少なくとも表向きは、何の問題もない。
……はずだった。
一歩、足を踏み出した瞬間。
胸の奥が、きしりと軋んだ。
「……っ」
思わず、足が止まる。
「どうした?」
ディランの声が、すぐそばから聞こえた。
「いえ……」
そう答えかけて、言葉が詰まる。
違う。
これは、気のせいじゃない。
空気が、重い。
耳鳴りのような微かな振動が、頭の内側で響いている。
まるで、見えない糸で心臓を引かれているかのようだ。
「……胸が、少し」
そう言うのが精一杯だった。
ディランは、私の様子をじっと見つめる。
「無理はするな。少し休むか?」
「大丈夫です」
そう言って微笑む。
だが――私は、はっきりと感じた。
“呼ばれている”。
遠く、遠く。
声にならない悲鳴のようなものが、胸の奥に流れ込んでくる。
「……これは……」
指先が、冷たくなる。
「ティアナ?」
ディランが、私の手を強く握った。
その温もりで、かろうじて現実に繋ぎ止められる。
案内役の研究者は、気づいていないふりをして歩き続けていた。
だが、その背中が、わずかに強張ったのを私は見逃さなかった。
――ここは、間違いない。
この研究所は、
何かとてつもないものを隠している。
そしてその瞬間。
研究所のさらに右奥、誰もいないはずの場所で――
確かに、何かがこちらを認識した。