夜明けが世界を染めるころ
紅血生成炉が唸りを上げた瞬間――

「……っ!」

床一面の魔法陣が、さらに複雑な紋様へと書き換わった。

「まさか……」

ガイルが両腕を広げ、恍惚とした声を上げる。

「さあ、目覚めろ。
集いし魔女の雫よ――紅血へ至るための“器”となれ!」

装置が赤黒く閃いた。

次の瞬間。

――ズズズ……!

壁が割れ、天井が開く。

研究区画の四方八方から、
人型、獣型、歪な結晶体。

魔女の雫で作られた擬似生命体が、雪崩れ込んできた。

「……数、増えすぎ!」

「だが退路はない!」

ディランが即座に前へ出る。

「来るぞ、ティアナ!」

「はい!」

蒼い剣が唸る。

「蒼き風よ、導け――ラピスラズリ!」

私は跳躍し、空中で身を翻す。
蒼い斬撃が連続して走り、前列を一気に吹き飛ばした。

だが――

「再生してる!?」

砕いたはずの敵が、赤黒い霧から再構成されていく。

「紅血炉が稼働している限り、無限再生か……!」

ディランが歯を噛みしめた。

敵は、すでに三十を超えている。

「このままじゃ……!」

その瞬間。

ディランの剣のアレキサンドライトが強く脈打った。

――キィン……。

澄んだ高音。

時間が、一瞬だけ引き延ばされる。

「……?」

彼の剣の光が、
淡い緑と深紅を行き来しながら、刃の内でせめぎ合う。

やがてその2色は、互いを拒むことなく溶け合い――
白を超えた、金にも似た白金の光へと昇華した。

「これは……」

ディランが目を見開く。

「アレキサンドライトが……」

宝石が応えている。

――王子としてではない。
一人の人間として、守りたいと願った心に。

「馬鹿な!」

ガイルが叫んだ。

「その覚醒は想定外だ!」

光が爆ぜる。

「変転の光よ――
我が意志に従え、アレキサンドライト」

ディランの声が、戦場全体に響いた。

光は剣だけでなく、彼自身を包み込み、
背後に巨大な光の紋章が展開される。

「ティアナ」

彼は振り返る。

その瞳に宿る色は、
迷いを越えた証のように、
エメラルドからルビーへと移ろっていた。

「君に背を預けるのは……意外と頼もしいな」

「そんな悠長なこと言ってないでください!」

私は即座に言い返す。

「敵、まだ増えてます!」

「はは……確かに」

ディランは笑い、剣を構え直した。

「では――一気に行こう」

蒼と光が、同時に走る。

蒼い暴風と、白金の光の奔流。
2つの魔力が交差し、共鳴し――

敵の群れを、まとめて飲み込んだ。

爆風が収まったとき。
広間の半分が、更地になっていた。

それでも。

紅血生成炉は、なおも脈動を続けている。

ガイルは、狂気の笑みを浮かべた。

「素晴らしい……!
だが、ようやく条件が揃った――」

その視線が、私へと突き刺さる。

「君の血が、反応しているぞ。
魔女セイレーンの――器よ」

胸の奥が、熱く疼いた。

ラピスラズリが、かすかに震える。

次の瞬間、
ディランが迷いなく、私の前へ出た。

「彼女には、指一本触れさせない」

その背中は――
もはや剣ではなく、光そのものだった。
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