夜明けが世界を染めるころ
蒼を核とした無数の色が、螺旋となり、
世界の法則そのものを引き裂くように前へ走る。
その進路に立ちはだかる影――
ガイルは、もはや人の形をしていなかった。
膨張した肉塊が鎧のように重なり、
骨は外へ突き出し、歪な角となって天を裂く。
六本に分かれた腕の先には、
剣とも爪ともつかぬ黒刃が蠢き、
脈打つたび、腐臭を帯びた魔力が噴き出していた。
顔と呼べる位置には、
幾重にも重なった眼球が埋め込まれ、
瞬くたびに異なる感情――
憎悪、欲望、恐怖、狂気――を映し出す。
「……コロ、ス……
ウバウ……チカラ……」
喉が裂け、
複数の声が重なった異音が漏れる。
咆哮とともに振り下ろされた巨腕が、
空間そのものを叩き割った。
だが――
共鳴の一撃は、止まらない。
光が触れた瞬間、
怪物の魔力は“拒絶”された。
黒紫の奔流が、悲鳴を上げるように弾け、
調律された旋律に呑み込まれていく。
「ギ……ァ……?」
最初に崩れたのは、形だった。
増殖を続けていた肉塊が、
まるで間違いを正されるように逆再生し、
膨張した腕が萎み、
ねじれた骨が砕け散る。
次に、声。
幾重にも重なっていた叫びが、
ひとつ、またひとつと剥がれ落ち、
やがて音にならない震えだけが残った。
「ナ……ゼ……」
残った口が、かろうじて言葉を形作る。
だが共鳴の光は答えない。
それは裁きではなく、
憎しみでもなく、
ただ――
世界が“間違い”を修正する現象だった。
怪物の身体に、無数の光の亀裂が走る。
まるで硝子細工のように、
異形の巨体が内側から輝き始める。
次の瞬間。
――砕けた。
爆散ではない。
血も肉も飛び散らない。
存在そのものが、
“在ってはならないもの”として分解された。
黒い塵は音もなく崩れ、
共鳴の旋律に溶け込み、
やがて風にほどけて消えていく。
最後に残ったのは、
人の胸ほどの大きさの魔核。
それすらも、
蒼の光に触れた瞬間――
ひび割れ、
かすかな悲鳴のような音を残し、
静かに砕け散った。
怪物は、完全に消えた。
そこには、
倒された敵の死体も、
勝利の証も存在しない。
あるのはただ、
重く澄んだ静寂だけ。
共鳴の光が、ゆっくりと収束していく。
戦場に吹いた風は冷たく、
しかしどこか、夜明けの匂いを帯びていた。
――ガイルは、もはや“人に戻ることすら許されない存在”として、
世界から、完全に消去されたのだった。