夜明けが世界を染めるころ
「お嬢様、そろそろ支度をいたしましょう」
アリスがドレスや小物類を準備しながら声をかけてくる。
「では、アリス。よろしくお願いします。
お嬢様 一応こちら今日の名簿になりますので目を通しておいてください。クラリス夫人への誕生日プレゼントは上質なシルクのカーディガンを用意してあります。
では後ほど迎えに来ます」
そう言って、ユウリは部屋を出ていった。
さすがユウリ 抜かりない。
もらった名簿に目を通す。
「ねぇ、アリス」
「何でしょう、お嬢様?」
「媚を売るって、どうしたらいいと思う?」
「そのお相手は殿方ですか?」
「……まあ」
「でしたら、こうです」
そう言うとアリスは右手を軽く握り、頬の近くに添えて小首を傾げてみせた。
「それ、本当に効果ある?」
「お嬢様の美貌なら、殿方などイチコロです。ついでに上目遣いも忘れずに」
……なんだか、あまり当てにならない気もする。
パーティ用のドレスに着替え、ヘアセットとメイクも整えてもらった。
今日は紫色ドレス。髪型はハーフアップだ。
鏡に映った自分を見て、思わず瞬きをする。
「……誰?」
「お嬢様ですが?」
「知ってるけど、そうじゃなくて」
普段より少し大人びた姿に、どうにも落ち着かない。
紫色のドレスは動くたびに柔らかく揺れ、首元の装飾が控えめに光っている。
「とてもお似合いですよ。殿下も、きっと驚かれます」
「殿下はそんなことで驚くほど可愛い人じゃないよ。逆にそれで驚かれたら怖いんだけど……」
アリスは楽しそうに微笑んだ。
そのとき、控えめなノックの音がした。
「お嬢様、準備はよろしいですか」
ユウリの声だ。
「ええ」
返事をしながら、私は一度だけ深呼吸をした。
逃げたい気持ちは変わらない。
でも、ここまで来たら腹をくくるしかない。
(媚を売る……)
アリスの仕草を思い出し、鏡の前で小さく首を傾げてみる。
「……うん、やっぱり無理」
「本番でお願いしますね」
そう言ってアリスは、そっと背中を押した。
パーティ会場へ向かうため馬車に乗り込む。
10年分の本と、10年分の気まずさを抱えたまま——。
アリスがドレスや小物類を準備しながら声をかけてくる。
「では、アリス。よろしくお願いします。
お嬢様 一応こちら今日の名簿になりますので目を通しておいてください。クラリス夫人への誕生日プレゼントは上質なシルクのカーディガンを用意してあります。
では後ほど迎えに来ます」
そう言って、ユウリは部屋を出ていった。
さすがユウリ 抜かりない。
もらった名簿に目を通す。
「ねぇ、アリス」
「何でしょう、お嬢様?」
「媚を売るって、どうしたらいいと思う?」
「そのお相手は殿方ですか?」
「……まあ」
「でしたら、こうです」
そう言うとアリスは右手を軽く握り、頬の近くに添えて小首を傾げてみせた。
「それ、本当に効果ある?」
「お嬢様の美貌なら、殿方などイチコロです。ついでに上目遣いも忘れずに」
……なんだか、あまり当てにならない気もする。
パーティ用のドレスに着替え、ヘアセットとメイクも整えてもらった。
今日は紫色ドレス。髪型はハーフアップだ。
鏡に映った自分を見て、思わず瞬きをする。
「……誰?」
「お嬢様ですが?」
「知ってるけど、そうじゃなくて」
普段より少し大人びた姿に、どうにも落ち着かない。
紫色のドレスは動くたびに柔らかく揺れ、首元の装飾が控えめに光っている。
「とてもお似合いですよ。殿下も、きっと驚かれます」
「殿下はそんなことで驚くほど可愛い人じゃないよ。逆にそれで驚かれたら怖いんだけど……」
アリスは楽しそうに微笑んだ。
そのとき、控えめなノックの音がした。
「お嬢様、準備はよろしいですか」
ユウリの声だ。
「ええ」
返事をしながら、私は一度だけ深呼吸をした。
逃げたい気持ちは変わらない。
でも、ここまで来たら腹をくくるしかない。
(媚を売る……)
アリスの仕草を思い出し、鏡の前で小さく首を傾げてみる。
「……うん、やっぱり無理」
「本番でお願いしますね」
そう言ってアリスは、そっと背中を押した。
パーティ会場へ向かうため馬車に乗り込む。
10年分の本と、10年分の気まずさを抱えたまま——。