余命2ヵ月のわたしを愛した死神


こんなはずじゃなかった···――――

これが、"人生のどん底"なのだと思った。


今わたしの目の前には、信じ難い光景が広がっている。

「し、雫(しずく)···何で······」

見知らぬ女とベッドの上で裸で抱き合い、間抜けな表情でわたしの名を呼ぶのは、恋人の弘太郎(こうたろう)だ。

「ち、違うんだ!これは、ち、違う!雫!これは···っ···!」

何が"違う"のか?
どう説明しようと、"浮気"以外の何ものでもない状況に慌て、言い訳をしようとする弘太郎の言葉もわたしの耳には入って来ない。
わたしは何も言わずに凍り付くその場から立ち去ると、外へと飛び出した。

突然、薄暗い雲がかかり顔を隠す太陽。
かと思えば、まるでわたしの今の心情を表すかのような、悲しくシトシトと冷たい雨が降り出した。

傘も差さずに、少しでも遠くに行きたい気持ちのまま、ただひたすらに走る。
水溜まりも気にせず地面を蹴るそのびしょ濡れの足は、ストッキングの色も変わり、黒い5センチヒールのパンプスの中もグショグショになっていた。

(一体、わたしが何したっていうの?)

神様なんていないと思った。
努力が報われるだなんて、嘘だと思った。

わたしはこの日、掴んでいたはずの"仕事"と"恋人"の両方から手放す事となったのだった···――――


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