余命2ヵ月のわたしを愛した死神
***
この日わたしは、「話がある。」と部長から呼び出されていた。
何の事についてなのか、検討もつかずに従うまま面談室に呼ばれ、わたしは部長と向かい合うように席についた。
そこで部長の口から出てきたのは、わたしを崖の上から突き落とすような言葉だった。
「芽吹(めぶき)さん、実はね、先日決まったプロジェクトリーダーの件なんだけど、あれは無かった事にもらえないかい?」
意味が分からなかった。
ずっと実現の為に実績を積み重ね、残業を繰り返しながら作り上げてきた企画が初めて通り、そのプロジェクトのリーダーとして任命され、これからという時だった。
「無かった事にって、どういう事ですか?どうしてですか?」
あまりにも突然の撤回発言に、わたしは前のめりになって言った。
すると部長はわたしから視線を逸らし、バツが悪そうに「いやぁ、そのぉ······」としどろもどろになりながら理由を述べ始めた。
「"ある人"からね、芽吹さんがプロジェクトリーダーなのは納得いかないと···話が出てね。このままプロジェクトを進めるわけにはいかなくなったんだよ。」
「"ある人"って···誰ですか?」
わたしは、その"ある人"に心当たりがあった。
いつも何かと難癖をつけ、わたしの業務を妨げるような行為を続けてきた人物、それは···――――
「船田(ふなだ)さんですか?」
わたしがある特定の人物の名前をあげると、部長はあからさまに挙動不審な態度を見せた。
船田さんとは、わたしと同じ部署の"お局様"だ。
「んー、まぁ、誰とは言えないが···、芽吹さんも少し考えて行動しないとね。やっぱり先輩を立てないと。入社してまだ5年の後輩にリーダーなんてやられたんじゃ、先輩の立場からすると面白くないだろ?」
否定しないところを見ると、やはりわたしがプロジェクトリーダーになるのを反対しているのは船田さんなのだろう。
ただそれだけでも納得がいかないというのに、部長は更に耳を疑うような発言をした。
「だからね、プロジェクトリーダーは船田さんにお願いする事にしたよ。」
わたし発信のプロジェクトに、なぜ一切関わっていない船田さんが···?
流石に納得がいかなかったわたしは、部長に「それなら、この企画自体を無かった事にしてください。」と申し出た。
しかし、部長はわたしの気持ちや言葉など、一切無視をして話を進めた。
「この企画自体は我が社にとってプラスになるだろうから、それは出来ない。リーダーが君から船田さんに変わるだけだよ。」
変わる"だけ"?
どこまでわたしを馬鹿にすれば気が済むのだろう。
まるで、十月十日お腹の中で大切に育てた我が子を、生まれた瞬間に奪われたような気持ちだった。
「あ、それからね···、突然で申し訳ないけど、芽吹さんにはM支社に異動してもらう事になったよ。」
「えっ?!M支社に異動?!どうしてですか?!」
「んー···、まぁ、色々あるんだよ。芽吹さん、あんな田舎の支社に行ったって大変なだけだ。だから、ねっ?分かるだろ?」
諭すような言い方をする部長に、わたしの気持ちはスーッと冷めていく。
要するに、田舎の支社への異動が嫌なら"自主退職しろ"という無言の圧力だ。
(本来であればリーダーになるはずの発案者が、理不尽な理由で突然下ろされたなんて周りにバレたら、都合が悪いんだろうな······)
自分が一番じゃないと気が済まないお局様に、被害者よりも加害者を守ろうとする上司、現場を知らずに上層部の話だけで面倒事を解決しようとする会社。
怒りを通り越し、涙も出なかったわたしは、スッと椅子から立ち上がると「分かりました。短い間でしたが、お世話になりました。」と無表情で頭を下げ、面談室を出たその足でそのまま総務課へ向かい、その場で退職届を記入したのだった。
この日わたしは、「話がある。」と部長から呼び出されていた。
何の事についてなのか、検討もつかずに従うまま面談室に呼ばれ、わたしは部長と向かい合うように席についた。
そこで部長の口から出てきたのは、わたしを崖の上から突き落とすような言葉だった。
「芽吹(めぶき)さん、実はね、先日決まったプロジェクトリーダーの件なんだけど、あれは無かった事にもらえないかい?」
意味が分からなかった。
ずっと実現の為に実績を積み重ね、残業を繰り返しながら作り上げてきた企画が初めて通り、そのプロジェクトのリーダーとして任命され、これからという時だった。
「無かった事にって、どういう事ですか?どうしてですか?」
あまりにも突然の撤回発言に、わたしは前のめりになって言った。
すると部長はわたしから視線を逸らし、バツが悪そうに「いやぁ、そのぉ······」としどろもどろになりながら理由を述べ始めた。
「"ある人"からね、芽吹さんがプロジェクトリーダーなのは納得いかないと···話が出てね。このままプロジェクトを進めるわけにはいかなくなったんだよ。」
「"ある人"って···誰ですか?」
わたしは、その"ある人"に心当たりがあった。
いつも何かと難癖をつけ、わたしの業務を妨げるような行為を続けてきた人物、それは···――――
「船田(ふなだ)さんですか?」
わたしがある特定の人物の名前をあげると、部長はあからさまに挙動不審な態度を見せた。
船田さんとは、わたしと同じ部署の"お局様"だ。
「んー、まぁ、誰とは言えないが···、芽吹さんも少し考えて行動しないとね。やっぱり先輩を立てないと。入社してまだ5年の後輩にリーダーなんてやられたんじゃ、先輩の立場からすると面白くないだろ?」
否定しないところを見ると、やはりわたしがプロジェクトリーダーになるのを反対しているのは船田さんなのだろう。
ただそれだけでも納得がいかないというのに、部長は更に耳を疑うような発言をした。
「だからね、プロジェクトリーダーは船田さんにお願いする事にしたよ。」
わたし発信のプロジェクトに、なぜ一切関わっていない船田さんが···?
流石に納得がいかなかったわたしは、部長に「それなら、この企画自体を無かった事にしてください。」と申し出た。
しかし、部長はわたしの気持ちや言葉など、一切無視をして話を進めた。
「この企画自体は我が社にとってプラスになるだろうから、それは出来ない。リーダーが君から船田さんに変わるだけだよ。」
変わる"だけ"?
どこまでわたしを馬鹿にすれば気が済むのだろう。
まるで、十月十日お腹の中で大切に育てた我が子を、生まれた瞬間に奪われたような気持ちだった。
「あ、それからね···、突然で申し訳ないけど、芽吹さんにはM支社に異動してもらう事になったよ。」
「えっ?!M支社に異動?!どうしてですか?!」
「んー···、まぁ、色々あるんだよ。芽吹さん、あんな田舎の支社に行ったって大変なだけだ。だから、ねっ?分かるだろ?」
諭すような言い方をする部長に、わたしの気持ちはスーッと冷めていく。
要するに、田舎の支社への異動が嫌なら"自主退職しろ"という無言の圧力だ。
(本来であればリーダーになるはずの発案者が、理不尽な理由で突然下ろされたなんて周りにバレたら、都合が悪いんだろうな······)
自分が一番じゃないと気が済まないお局様に、被害者よりも加害者を守ろうとする上司、現場を知らずに上層部の話だけで面倒事を解決しようとする会社。
怒りを通り越し、涙も出なかったわたしは、スッと椅子から立ち上がると「分かりました。短い間でしたが、お世話になりました。」と無表情で頭を下げ、面談室を出たその足でそのまま総務課へ向かい、その場で退職届を記入したのだった。