もう一度、好きになってもいいですか?

友達と幼馴染と恋人と

夜の提灯は昼とは違う表情を見せる。
灯りが人の輪郭を柔らかくぼかし、石畳に暖かなオレンジ色の光を撒いていた。

碧とは違う学校だから、自由時間のみの儚い時間を楽しもうと思っていた。
だけど、またもやホテルでバッタリ逢って、夜のお祭りまで一緒に回れることになった。

…嬉しいけど、上手くいきすぎて逆に怖い。

屋台の湯気と香りが混ざり、どこか懐かしい匂いがする。


「さて、夜の散策いくぞー!」


碧が先導して男衆を引っ張っていく。
心葉と悠翔は手をつないだまま、私たちのことをクスクス見ている。

心葉の頬がほんのり赤いのが見えると、こっちまでにやけてしまう。

屋台の並ぶ通りで、射的に挑戦したり、金魚すくいで笑い合ったり。
碧は相変わらず周囲のからかいを受けながらも、私のことを気にかけてくれる。

そんな彼が頼もしくて、でも少し恥ずかしい。


「美咲、寒くない?」


夜風が冷え始めた頃、碧が肩越しに尋ねる。私は浴衣の裾を引き寄せて首を縮める。


「あ、ちょっと寒いかも」


碧は言葉少なに自分の羽織を脱ぎ、私にかけてくれる。

周りがちょっとどよめいて、「おおー!」と歓声が上がる。
碧は赤くなって「着ててくれ」と一言。
素直じゃないその言い方が、妙に胸をぎゅっとさせる。

(なに、それ…私の方が恥ずかしいって…!!)


「美咲ちゃんたちって、本当に幼馴染なんだよな?」


横から悠翔がからかい半分に言うと、心葉が「うん…私たちよりカレカノみたいだね…」と突っ込む。

みんながふざけ合う中、碧は私を見て顔を赤くする。
それを見た私も、なんだか頬が赤くなった気がした。

触れた指先が温かくて、不意に心がほどける。

カサリ、と音を鳴らし碧に手紙を持たせる。
手紙って言っても、[ちょっといい?]としか書いていない、可愛げのないものだけど。

「ちょっと、俺ら抜けるわ」

そう言って私の手を引いていった。

(なんでこんなにも…頼もしいんだろう)

なんて思いながら、されるがままに歩いてく。

二人で少し離れて、川沿いの石段に座る。
提灯の光が水面に揺れ、ふたりの影を長く伸ばした。


「来てくれて、ありがとう」


囁くように言うと、碧は少し笑って目を伏せた。


「来ないわけないだろ。
 美咲がいうならどこでもいくよ?」


その率直さが、真っ直ぐに届く。言葉は飾り気がないのに、胸に刺さる。

「碧……あの時、本当にありがとう。
 すごく助かった」

正直に打ち明けると、碧は黙って私の顔を見つめた。


「いいってことさ!
 俺も助かったし、おあいこだよ。
 またなんかあったらいえよ?マッハで駆けつける」


彼の声は低く、決意がこもっていた。
私の胸は熱くなって、涙が出そうになる。
けれど、こんな真夜中にふたりだけでしんみりするのは照れくさくて、私は口をそっとつぐんだ。

「……あのさ、俺…」

碧が話だそうとしていたら、「碧ー!」と碧の友達の田中くんが遮る。

ふたりの静かな時間を、遠くから友達の甲高い声が壊す。
耳をふさぎたくなるくらいのタイミングで心葉が「悠翔!」と檄をとばしてくれて、みんなで吹き出す。

雰囲気は一気に軽くなって、また笑い合う。

「ごめん、碧。いまなんて?」

「んー?いや、いいや。」

「そっか」といって前を向く。
私も言いたい事があったけど、いまじゃない。
そう思い、のどまで出かけた言葉を飲み込んだ。

夜はそのままふわっと、優しいまま過ぎていった。

小さな花火が遠くで上がるのを見て、碧が私の指をぎゅっともう一度握る。

言葉じゃない約束が、そこにあった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝。旅館の朝食は大騒ぎの予感しかない。

布団を上げて階下に降りると、すでに男子たちが食堂で変顔をしながら朝ごはんを箸で突っついている。

碧の班の男子は早朝からテンション全開で、昨夜の写真を見せ合っては大笑い。

心葉と悠翔は、昨夜の手つなぎを互いに小声で自慢し合っている。

「おはよう、美咲ちゃん!」

旅館のおばさんが元気よく迎えてくれて、思わず私もにっこり。

だがそこに、碧父の出張の話か何かを思わせるジョーク混じりのツッコミが入る。

碧の友達が「お前の幼馴染、本当に可愛いな!」と叫ぶと、碧が慌てて「黙れ!」と怒鳴る。

その剣幕にみんながまた爆笑する。

テーブルの席順をめぐって、ちょっとしたコメディが始まる。
碧が「美咲、そこ空けとけよ」と言えば、横から別の男子が「俺もそこいい?」と割り込む。

悠翔が小声で「碧、守れよ」なんて言うと、心葉が「守るのは私の役目!」と張り合い、食卓は笑い声の渦になる。

朝ごはんの最後、碧が恥ずかしそうに私の箸に一品つまんで差し出した。

私は驚いて箸を伸ばすと、碧が「ほら、食べろよ」と真顔で促す。

ほんの一瞬のやり取りに、食堂の騒ぎが一瞬スローモーションのように感じられた。


「今日も楽しもうな」


碧が小声で囁くと、私は自然に笑って頷く。
返事は言葉じゃなくて、目の輝きと少し熱い手のひらで伝えた。

外に出ると、朝の光がやさしくて、昨夜の提灯の景色とはまるで違う。
班のみんなとまた歩き出す。
からかわれたり、笑い合ったり、ふとした瞬間に碧がそっと近くにいる。

そんな何気ない時間が、私には何より大事に思えた。

夜の甘さと朝のぬくもりを胸に、私たちは今日という一日を始める。

恋も友情もまだ未完成だけど、確かに動き出している——そんな予感をあたたかく抱えて。
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