鈍感な私は愛されヒロインです!?

当たり前みたいで、当たり前じゃない

 目覚ましの音で、目を覚ました。

……うるさい。

 枕元に手を伸ばして止めて、もう一度布団に顔をうずめる。

 いつもと同じ朝。
 カーテンの隙間から入ってくる光も、部屋の静けさも、変わらない。

「……起きないと」

 頭では分かっているのに布団から出たくなくて、私はごろりと寝返りを打った。

 昨日のことが、ふっと浮かぶ。

 生徒会室。
 帰り道。
 月城くんの、いつもより低かった声。

「……」

 考えかけて、やめる。

 別に、深い意味なんてない。
 ちょっと空気が変だっただけ。

 そう、自分に言い聞かせて、布団を蹴飛ばすように起き上がった。

 顔を洗って、制服に袖を通す。
 鏡に映る自分は、いつも通り。

「よし」

 それなのに。

 リボンを整えながら、なぜか胸の奥が落ち着かない。
 理由は分からない。
 強いて言うなら――

「……なんでだろ」

 何か、忘れているような。
 でも思い出せないような。


 玄関で靴を履いて、家を出る。
 朝の空気は少し冷たくて、深呼吸すると頭がすっきりした。

 通学路を歩きながら、無意識に周りを見る。

 ……いない。

「……?」

 何が、とは言えないけど、
視界のどこかが、少しだけ足りない気がした。

「気のせい、か」

 そう呟いて、私は歩き出す。

 当たり前みたいに始まった朝。
 いつも通りのはずの登校。

 でもこのときの私は、まだ知らなかった。

 この“当たり前”が、
少しずつ形を変え始めていることを。
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