【完】君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
「家は一度差し出せば戻らない。数字は後から作れるが、一度失った信用を修復するのは至難の業。兄貴なら、この言葉の意味が分かってくれるはずだ」

 奏汰の言葉を最後に、沈黙が座敷を支配する。庭園の鹿威しが時を刻む音だけが、静かに響いていた。
 全員の視線が隆之に集まる中、彼は長く、重い息を吐き出した。

「婚姻を条件にする提案も含め、一度……すべて白紙に戻し整理させていただきたい。現状のままでは、僕は首を縦に振れません」

 奏汰は何も言わず、ただ静かに肩の力を抜いた。
 カタン、と鹿威しが乾いた音を立てる。その音は、この場を支配していた均衡が、音を立てて崩れた合図のようだった。

「……愚かね」

 麗奈の声が、初めて激情に震えた。扇子が卓に叩きつけられ、乾いた音が座敷の空気を切り裂いた。

「あなた達は何も分かっていない! 氷室も高坂も、このままでは時代に取り残されるのよ!」

 麗奈の瞳の奥に燃えるどす黒い炎を感じ取り、晴菜は息を詰めた。それは家を守る者の情熱ではなく、もっとおどろおどろしい執念のようなものだった。

「私は間違っていないわ。高坂にいた頃も、誰より数字を読めたのは私だった。だから――」
「お母様」
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