だからアナタに殺されたい。
1.聖女、エレノア



吸血鬼。
どこかの伝承に記されているような長寿でもなければ、不思議な力が使えるわけでもない、人間と何も変わらない存在。
だが、彼らは人間と決定的に違う本能をその身に宿していた。



「吸血鬼の捕縛、完了しました!」



救護室の大きな窓の向こうから、無慈悲な誰かの声が聞こえる。
椅子に腰掛けたまま思わずその声に視線を動かすと、そこには、5人の騎士に捕えられ、歩かされている美しい男の人がいた。

20代前半…私と同年代くらいだろうか。
彼の口には猿轡がされており、自由を奪う為に両手には無骨な手錠がかけられている。
大人しく騎士たちと共に歩く姿は力なく、弱っているのだと一目でわかった。

美しい彼は、見た目はごく普通の人間だ。
だが、その瞳は血のように赤い。
あの瞳こそ、人間が忌み嫌う吸血鬼の証そのものだった。

彼の姿に胸の奥底がぎゅうと締め付けられる。

…見ていられない。

私は逃げるように視線を元の場所へと戻した。
私の目の前には、今日も怪我を負った患者がいる。
他のことに気を取られている場合ではない。
薬師として仕事を全うしなければ。



「エレノア?」



椅子に座り、右腕に薬を塗られていた騎士、ローゼルは私の様子を見て、伺うように声をかけてきた。


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