だからアナタに殺されたい。
「…怖い、ですか?」
「まぁ、うん、そうね…」
私を気遣う声音に、胸が静かにざわめく。
はっきりとしない私の反応は言葉通り、怖がっているようにも見えるだろう。
吸血鬼が人間から忌み嫌われる理由、それは抗えない本能の先にある最悪の症状、禁断症状のせいであった。
吸血鬼は1日に一回、血を摂取しなければ、禁断症状を発症する。
禁断症状を発症してしまえば最後、吸血鬼は本能を抑えられなくなり、人間を襲い、最悪死ぬまで血を吸ってしまうのだ。
そして、もう戻ることのできないバケモノとなる。
自分の意思ではなく本能で血を求め続ける、哀れで、可哀想な存在に。
その為、禁断症状を発症した吸血鬼は殺人率が高く、処罰の対象とされていた。
あの捕縛された美しい彼も、禁断症状を発症したのだろう。
彼のような血のように赤い瞳こそが、吸血鬼が禁断症状に陥った証なのだ。
彼もその本能に抗えず、誰かを襲ったのだろうか。
騎士団に捕らわれ、歩かされている〝吸血鬼〟という存在に、救護室内に嫌な空気が漂い始めた。
「今月で何件目?怖いよねぇ」
私と同世代の女性の薬師、ルルが嫌悪感を隠そうともせず、窓の外を睨む。
「あの美貌も人間を捕食する為らしいよ」
「確かにあんなに綺麗だと危険だとわかっていても近づいちゃうよね。怖い怖い」
彼女から少し離れたところでは、2人の女性看護師が眉間にシワを寄せ、ひそひそと冷ややかな声を潜ませている。
「この前の殺人事件も吸血鬼の仕業だってさ」
「どうして帝国は吸血鬼を根絶やしにしないのだろうか?」
「やられる前にやるべきだよな」
それから医師や治療されていた騎士たち、ここにいる全員が口々に吸血鬼に対するヘイトを吐き出していた。