婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
空港内と違い外はやはり蒸し暑い。

ただ日没が迫ってきているため日差しはなく、人影もまばらだった。

滑走路を眺めながら並んで立った途端、江口さんが私に視線を向けて口火を切った。


「向くんが今どれだけ忙しくて大変か本当にわかっているの? あなたは吞気に退勤後に出歩いて、守られっぱなしでいいご身分ね」


「……広報業務で忙しいとは聞いています」


私の返答にキッと眉をつり上げた彼女が、さらに厳しい口調でたたみかける。


「自分の自宅の相続問題に向くんを巻き込んでいるんですってね。ただでさえ、多岐にわたる業務で多忙なうえ、会社の期待も大きい優秀な彼を巻き込むなんて最低ね」


「どうして、それを……」
 

江口さんの発言に驚いて思わず声が漏れた。


「私、あなたの従弟の続瑛斗くんとは学生時代からの知り合いでね、彼から聞いたの。あなたが向くんの想い人だったこともね。ちなみに続くんに向くんについて教えたのは私よ」
 

綺麗に口紅が塗られた唇をつり上げて、江口さんが妖艶に微笑む。


「念のために言っておくけど、続くんと協力してふたりの仲を引き裂こうとか思っていないから。そんな真似をしなくてもあなたたちはきっとうまくいかず破綻する」


「どういう、意味ですか?」
 

生ぬるい風がざっと吹いて、着ているシャツの裾をはためかせる。

ドクンドクンと鼓動がやけに大きな音を刻む。
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