婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「わからない? まったく釣り合っていないって意味よ。三年前、進路に悩む向くんの背中を見知らぬあなたが押した。あなたは向くんにとって恩人で理想の女性っていう美化したフィルターがかかっているだけ、一時の熱に浮かれているようなものよ」
 

勝ち誇ったように告げる声が、胸の奥に鋭い矢のように深く刺さる。


「以前から知り合っていて惹かれていたらしいけど、本当なの? ただ行きつけのカフェの娘がたまたま恩人だっただけでしょ。図々しくも実家の問題に巻き込む、厄介な守られてばかりの、副操縦士の職業への理解のない妻なんてただのお荷物もいいところよ」
 

ふう、と江口さんが小さく呆れたように息を吐いた。


「彼の理想はね、釣り合う家柄はもちろん、有能さと評判、彼を公私ともに支えられる力を持っていて、さらに仕事に深い理解がある女性なの。私みたいにね。有能な人だからすでに現実に気づいているはずよ。この結婚は間違いだったって」


「え……」


「責任感の強い人だから、理想とかけ離れたあなたとの離婚を言い出せずにいるの。彼を解放してあげるのが今のあなたができる最後の恩返しじゃないのかしら。どうせなら、あなたをよく理解してくれる方と再婚したら? そう、続くんとか」
 

江口さんの発言に頭を鈍器で強く殴られたような衝撃を受けた。

目の前が真っ暗に染まり、混乱で上手く声が出ない。
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