婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「私も広報に携わっているのだけれど、最近よく向くんが上層部と話しているのを見かけるの。なにか深刻な相談があるのかもね?」


「私は、なにも聞いていないので……すみません、彼と話します。失礼します」
 

綺麗に口角を上げた江口さんに、必死に動揺を押し隠して返答する。

これ以上ここに留まりたくなくて軽く頭を下げて、そのまま踵を返す。
 
震えそうになる足を懸命に動かして、できるだけ彼女から距離を取る。

突き刺すような鋭い視線を背中に感じていたが、構う余裕はなかった。
 

肩にかけたバッグの持ち手を強く握りしめ、駅に向かって早足で歩く。

その間、ずっと江口さんとの会話が頭の中で繰り返されていた。

確かに最近の琉生さんはとても忙しそうだ。

普段から多忙な人だが、近頃は以前とは違い、休日にもよく電話がかかってきていて、通話相手になにかの確認をしている声を聞いたのは一度や二度ではない。

さりげなく尋ねたところ電話の相手は会社、上司からだと教えられた。

詳細を尋ねられそうな雰囲気ではないうえ、根掘り葉掘り問うと誤解されそうでそれ以上言えなかった。

やってきた電車に乗り込み、日が落ちて暗くなっていく空を車窓からぼんやり眺める。
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