婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする

7.ずっと想っているSIDE琉生

目の前で閉まった寝室のドアを見つめる。

鍵のかかっていないドアが蕗の心情を表すかのようにひどく硬く重く見えた。
 
今にも泣き出しそうな蕗の表情、語調が頭の中に浮かぶ。

思い返してみれば蕗の様子は普段と違っていた。
 
いつもは穏やかで落ち着いているのに、今日はどこか不安そうに見えた。

俺の帰りが遅かったせいか、指輪を楽しみにしてくれているのか、なんて楽観的な思考を抱いていた数時間前の自分を叱りたい。

閉じられたドアに向かってとっさにかけた言葉には反応がなかった。

考えてみれば蕗はずっとなにかに悩み、尋ねようとしていた気がする。

ただ内容の見当がつかない。


俺との結婚を周囲に打ち明けたことで蕗に大きな負担を日々強いている。

同僚や偶然空港内で会った蕗の親友から、蕗について尋ねる質問が多いとも聞いていた。

こういう事態を予測しなかったわけじゃないが、蕗の実家の相続や虎視眈々と蕗の夫の座を狙う従弟の件もあり、なにより最愛の人と結婚した事実を隠したくなかった。

すべては俺のわがままだ。

負担をかけているにも関わらず、業務内容や会社も異なるため大っぴらに庇いも守りもできず、歯がゆい。

もちろん蕗の名前や容姿が特定されたり危険にさらされたりしないよう、対処していた。

上司にも結婚を機会に今後は後輩に広報活動の主軸を譲り、動画出演を少しずつ減らしたい旨を伝えていた。

そのため、後任探しはもちろん、引き継ぎなど急な変更が重なり、一時期はひどく忙しくしていた。

俺の訴えに上司は納得してくれていたが、すぐにどうこうできる話ではなかった。
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