婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
ふたりきりの帰り道で瑛斗への対応の礼を告げた私に、彼は真面目な表情で告げた。


『蕗が不安に思う事柄はできる限りすべて取り除きたい。だから気になることがあればどんな些細なものでも教えてほしい』
 

その言葉を聞いてから、新たな目標をひっそり掲げていたはずの私の心は情けなく揺れ動いている。
 
今はもう不安に支配されてもおらず、結婚を後悔もしていない。

ただ私は同じ位置でまだ立ち止まったままだ。
 

十月半ばの今日、仕事を終えた私は羽田空港を出て、買いたいものがあったので帰り道にある商業施設に向かっていた。

琉生さんはミラノへフライトで羽田空港に明日午前八時半に到着予定だった。
 
商業施設内で化粧品を買った後、本屋に立ち寄った。

文庫本を選んでいるとき、向かい側にある児童書コーナーで両手に二冊の本を持って悩んでいる十歳くらいの女の子が目に入った。

どうやらどちらを買ってもらうか迷っているらしい。

真剣な表情を微笑ましく眺めていたところ、女の子の母親らしき女性が決めかねている女の子にアドバイスをした。


「自分が好きなほうを選べばいいのよ」


「でも」
 

くしゃりと顔を歪めた女の子の頬に手を添えて母親はにっこり笑う。


「誰かの思うとおりじゃなくていいの。本当はなにを読みたいのか、自分の気持ちを一番に考えなさい。本だけじゃなく、これから先なにを選んでもあなたはあなたでしょ。ママはどんなあなたも大好きよ」
 

娘を諭す母親の声が耳に響いた瞬間、目が覚めたような気がした。
< 163 / 185 >

この作品をシェア

pagetop