婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「家に帰って、疲れていなかったら聞いて」


「蕗の話はどんな些細なものでもすべて聞きたい」
 

軽やかに答える琉生さんに、心の奥がじんわりと温かくなった。
 
帰宅して、すぐにでも私と話そうとする彼だったけれど、少しでもゆっくりしてほしくて入浴を勧めた。

その間にお湯を沸かし、帰宅途中で購入したサンドイッチを一旦ダイニングテーブルに置く。

コーヒーを淹れていたところ、シャワーを終え、部屋着に着替えた彼がダイニングルームに姿を現した。


「琉生さん、髪をちゃんと乾かさなきゃ」


「大丈夫、拭いた」


「風邪を引くから、ちょっと待ってて」
 

以前とは逆の、少し懐かしいやりとりに少しだけ頬が緩んだ。
 
急いでドライヤーを洗面所に取りに行く。

すぐ近くのリビングルームの床に座っていた彼に、ソファに腰掛けてドライヤーをかける。

さらさらの髪が指の間をこぼれ落ちていく。


「気持ちいい、ありがとう、蕗」


あらかた乾いてドライヤーのスイッチをオフにしたところで、琉生さんが頭だけを私の方に向ける。


「次は俺にさせて」
 

ふい打ちで至近距離に迫る整いすぎた面差しにはやはりまだ慣れず、ほんの少し戸惑いながら小さくうなずく。

外出中や仕事中のものとは違う柔らかな表情とくつろいだ姿の彼の隣にいられるのがとても幸せだと感じたとき、自然に声が漏れた。
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