witch
家に着いた私は、母親の「おかえりなさい」の声も無視して、走って階段を上り自室のベッドに飛び込んだ。

堪えていた涙が一斉に溢れ出す。

「う、うう…。」枕に顔を押し当てて、声を押し殺しす。母親にもこんな姿を見られたくなかった。

自分より先に彼氏ができたことが悔しかったんじゃない。こまりに約束を破られたことが…小6の時に交わした、あの約束を破られた事が何よりも悔しかったのだ。そして、悲しかったのだ

あれからしばらく眠っていたようだ。気が付けば辺りは日が暮れて、暗くなっていた。

母親の夕飯ができたことを知らせる呼び掛けに、とても応える気にはなれなかった。

突然、部屋の扉がノックされる。心配した母親が様子を見に来たようだった。

「どうしたのよ、すずね。大丈夫?」母親の優しい声が扉越しに聞こえる。

その優しい声が、私の閉ざしていた心の鍵を開けていく。私は一人じゃない、そう思わせる声だった。

「今日、ケンカしたの、こまりと」母親の声に落ち着きを取り戻した私は、そっと打ち明けた。

「大川ないとっていうクラスの男子とばかり話してて、私とは全然話してくれないの!」

私は溜め込んでいた悲しみと怒り、悔しさを思い切り吐き出した。

涙はまだ止まってくれない。

だからこそ、遅れてしまったんだ。扉越しに立つ母親の異変に。

母親は、十秒くらいの沈黙の後に重々しく口を開いた。

「すずね、その大川ないとって子とは絶対に話しちゃダメよ」

二人の間に、沈黙が訪れた。

なぜ、母親は大川ないとのことを知っている?話しちゃダメとは一体どういうこと?

その時ふと、ホームルームの時の蝶野先生を思い出す。

あの時の、大川ないとに向けられた冷たい視線…。

情報が一気に私の頭に流れ混んでくる。気が付けば、涙は渇れ果てていた。
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