だからイケメンは嫌いだ
プロローグ

受験なんてくそくらえ

「勉強なんてしたくないんですけどー!!」

 私の名前は東雲由衣。中学3年の受験生で、今は8月。バスケ部だったけど、夏前に初戦で負けて、そのまま引退した。

 部活の練習はめんどくさかったから早くやめれてラッキー!とか思ってた自分がバカだった。

こんな勉強地獄が待っているなんて聞いてないよ……。

 私はテキストの横に置いてある悪魔に手を伸ばす。

そう、こいつがいつも勉強を邪魔してくるのが悪いんだ。

 910808

 これは悪魔を起こす番号。「く(9)た(10)ば(8)れ(0)や(8)」だ。

無理やりだけど、私の中では立派な呪文。

 あぁだめ……。もう我慢できないっ……。

「ねぇ、どこ行ってたの?俺のこと嫌いになった……?」

うぅ……!今日も推しが尊いです。

私が今見ているのはスマホゲームドキドキ☆ラビリンス。通称ドキラビ。

恋愛シミュレーションゲームで、めちゃくちゃ人気!

 ちなみにさっき「ねぇ、どこ行ってたの?俺のこと嫌いになった……?」って言ってたのは学園の爽やか王子様「空野輝」くん!

 輝くんルートはこれで6回目。今は「S系彼氏」にすべく頑張ってるんだ!あぁ~楽しみだな~!

「こら由衣ー!!」

ドアが勢いよく開く。

「マ、ママ!?」

買い物に行ってるんじゃなかったの……!?

「今は勉強中よね?その手に持ってるものは何かしら?」

「こ、これはー……」

「とにかく、没収ね?」

「……はい。」

くっ、不覚だった……。

「ちなみに返却はーー」

「もちろん、受験終わってからよ。」

「は!?そ、そんなの死刑宣告と同じなんだけど!?」

「とにかくいまは受験に向けて勉強でしょ?あんたが難関高校いきたいって言ったんだからね?」

「で、でもー……」

「……由衣。今は我慢しなさい」

そう言って、ママは少しだけ疲れた顔をして部屋を出ていった。

机の上に残ったのは、閉じた参考書だけだった。

さっきまで握っていたはずのスマホの感触が、手のひらに残っている気がして、ぎゅっと拳を握った。

 3月まで輝くんやみんなに会えない……?

一粒、二粒。

テキストの表紙が濡れる。

「受験なんてしたくない……!輝くんやみんなに、会いたいよー……。」

そう言って私は睡魔に負け、眠りについていたー……。




 あれ、ここは……?

 あたりには綿あめみたいなものがたくさんあった。

地面も綿あめでできているのかな……?そう思ってしゃがんだ時、頭に何かがずしっと乗った。

「おっも!」

思わずそう言ってしまう。5㎏のダンベルを乗せられたみたいだ。

「重いとは無礼だニャー。」

 私の頭に乗っていたものが目の前に降りてくる。

 え、ぽっちゃりした猫にかわいい羽根ついてるんだけど!

「はぁ、今から願いをかなえてあげるというのにニャんてやつだニャー」

「え、願いをかなえる?」

「お前を受験しなくていい世界に連れていってやるのニャー」

そう言った猫は笑っているのに、目だけが、全然笑っていなかった。

けれど私は、受験しなくていいという言葉に気を取られて気づけなかった。

「やったー!でも、なんで私?」

「まぁ気まぐれでお前が選ばれただけだニャー。とにかく、お前は受験をしなくてよくなるニャー。」

「最高!で、具体的にはー……」

「それは今からわかるニャー」

さっきまで乗れていたはずの足場からずるっと落下していく。

「ちょっと待って!こっから落ちて死ねってこと!?」

「お前が受験したくないって言ったんだニャー。」

 下には、見覚えのある街が広がっていた。

まって、私死にたくない……!

「ね、ねぇほんとに助けてよ……!」

「……」

なんで……?なんで急に喋らなくなるの……!?

無言のまま、私の横を飛んでいる。

しかもさっきとは違う真面目な表情で。

ーーもう、ダメだ……。死ぬ……。

さっきまで真面目な顔で飛んでいたそいつが、私の方を見て少しだけ悲しそうに表情をゆるめて、ぼそっと言った。

「願いは叶えたニャー。ただし、逃げ場所が天国とは限らない……のニャー……。」

恐怖で意識が飛んでいた私の耳には、もう届いていなかった。



明るい光が顔を照らしている。

「ん……。」

もう朝か……。

ーーって私生きてる!!さっき見てたのは悪夢だったのか。ていうか今何時……?

壁にかけてある時計を見る。

が、壁に時計はかかっていない。

「もーまま勝手に外したー……ってここ私の部屋じゃない……?」

 時計と一緒に壁に貼ってあるはずのドキラビキャラクター集合ポスターがないし、私の部屋はこんなにも物が整った部屋じゃない。

 私は窓を見た。

 いつも見ている景色じゃない……。しかも、反射して見えてる自分が、私じゃない……!?

ちゃんと確認するために部屋の中にあった鏡を見て自分の姿を確認する。

「ーーえ……?」

そこに映っていたのは、毎日見てきた顔、画面の向こう側にいるはずの――坂爪葵ちゃんだった。
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