魔法☆乙女(マジカルメイデン) ~九尾のキツネと五百年の約束~
第1話 夏祭り
チリリリリィィィ……ン。
「んぁ?」
ピンク色のヘルメットを自転車のカゴに入れたあたしは、キョロキョロと辺りを見回した。
なーんか音がしたような気がしたんだけど……気のせい……かな?
まままま、そんなことより、そんなことより!
「臨時のおこづかいのおかげで、ふところがほっかほかだよぉ! これだけあれば……にゃっはは! さぁ、いざ戦場(屋台)へ!」
お気に入りのショルダーバッグをしっかりと肩にかけたあたしは、ワクワクに背中を押されつつ、神社の大鳥居をくぐって階段を上り始めた。
あたしの名前は、橘朝陽。小学五年生。
今日ばかりは無敵である。
いやいや、昨日までスッカラカンだった財布がこれだけふくらんでりゃ、テンションだって上がるってもんでしょ!
ここ神楽町は、日本中どこにでもある普通の町だ。
ただ、唯一の駅に快速が停まらないせいで、人も増えないし発展もしない。
実にショボい。
ぶっちゃけ過疎ってる。
でも、一年に一度、夏祭りの今日だけは別だ。
観光客の目的は、もちろんこの神社。
お稲荷さんを祀っているんだけど、すっごく昔からある神社なんだって。
おかげで道は混み混み、駐車場はパンパン。
参道だって歩くの大変なんだから。
うん、どーでもいいね!
いやいや、あたしたち地元の小学生だって、初詣と夏祭りの日以外はこんな場所こないってば。
だってさ、この神社、町を見下ろす山のてっぺんにあるんだよ?
五百段なんて馬っ鹿みたいに長い階段を普段っから登る気になる? ないない。
ってことで――。
ひぃひぃ言いながら上る大量の観光客に混じって階段を上ったあたしを、心地よい夜風と光あふれる大量の屋台群が待っていた。
神社へと続く石畳の参道には人がいっぱい。
どっちを見てもザワザワとにぎやかだ。
そしてこの、鼻をくすぐる美味しそうな匂いときたら!
「おおぅ、天国じゃぁ……」
目をらんらんと輝かせたあたしは、参道に沿ってズラリと並んだ屋台群に突入した。
ジャガバタ、からあげ、お好み焼き、焼きそば。
リンゴ飴にかき氷、わたあめにフランクフルト。
「うっはー! どれから行くか、迷ってしまうぅぅ!」
目を輝かせて片っ端から屋台を覗きこんでいたあたしは、とある屋台から目が離せなくなってしまった。
左はチョコバナナ屋さん、右は焼きイカ屋さんで、どっちも長い列ができているのに、間に挟まれたこのお店だけはガッラガラ。
ダボシャツを着た店員のおじさんがヒマそうに大あくびしちゃってる。
ツカツカっと近寄ったあたしは財布から千円札を抜き出すと、おじさんに話しかけた。
「おじさん、そこのピンクのヤツを一つ」
「お? おぉおぉいらっしゃい、お嬢ちゃん! え? これ買うのかい? そっかそっか。えーっと、千円だな」
「りょ!」
「待ちなさい!」
不意に横から伸びてきた手に千円札を持った左手をむんずとつかまれたあたしは、手の主を見た。
ここまで走ってきたのか、ロングヘアの美少女が肩で息をしている。
「なんだ月奈じゃん。早かったね」
「下にアサヒの自転車があったから、慌てて登ってきたのよ。あんたに無駄づかいさせないためにね!」
それは、クラス委員の成宮月奈だった。
幼稚園からの付き合いになる、あたしの一番の友だち。
ボケとツッコミ、というより保護者ってほうが近いかも?
ショートボブに白のデザインTシャツ、ピンク色のスカートの下に黒の七分丈レギンスと、よくいる普通の小学生女子のあたしと対照的に、ルナはサラっサラのロングヘアに黒のティアードワンピースで、どこから見ても完璧な美少女だった。
どうせどこかで会えるだろうとは思っていたけれど、ずいぶんとお早いおでましだったね。
「お嬢ちゃん、買うんかい? 買わないんかい?」
「あ、そうそう。えっとね、ピンクの……」
「買いません!」
「買うってばぁ! だってほら、めっちゃ可愛いじゃん!」
あたしは屋台に置いてある輪っかを指差した。
『スターライトブレスレット』と書かれたソレは、輪っかの部分に空気のつぶつぶの入った光るブレスレットだった。
色はピンク、ブルー、イエロー、グリーン、パープル、ホワイトの六種類。
暗いところで光らせると空気のつぶが星みたいに見えて、とってもきれいだ。
「あんた馬鹿なの? こんなの百円ショップで買えるじゃない」
「いや、買えないって。アレは単色だし、サイリウムでしょ? これは電池」
「電池交換できるの? 使い切りタイプじゃないの?」
「……さぁ」
「ほぉらごらんなさい! 今夜一晩で終わっちゃうようなものに千円も使ってどうするのよ!」
「嫌だ、買うぅぅぅ! あ、そうだ。ルナも買わない? ほら、色違いで。友情の証ってやつ。ね? ね?」
「はぁ? 千円よ!? 買うわけないでしょ!」
「そんなこと言わずにさ、お友だち! フレンド! ズッ友! 幼なじみ!」
「買わないったら!!」
五分後――。
「まいどあり!」
ほおづえをつきながらあたしとルナのやりとりを見ていた店のおじさんが、ニコニコしながらあたしたちに光る輪っかを渡してくれた。
千円札二枚と引き換えに。
あたしの説得を受け続けたルナが、あえなく折れたのだ。
ミイラ取りがミイラになるとはよく言ったものだよね、あっはっは。
ちなみにあたしはピンク。ルナはブルー。
二個セットだから、両手首にピンク色の輪っかが光っている。
見ると、ルナがめっちゃ悔しそうな顔をしている。
「あーもぅ! わたしってばなんでこんなに流されやすいんだろう! こんな子供だましに千円も使うだなんて!」
「いいじゃん、子どもなんだから。ほら、キラっキラだよ? かっわいぃねぇぇ! あ、パインだ。パイン売ってるよ? パイン買おう!」
あたしは次の店で冷やしパインを買うと、早速かじった。
ルナは冷やしキュウリ。チョイスが渋い。
ルナは学級委員をやるだけあって普段とてもしっかりしているが、粘り強く説得すると意外とあっさり屈する。
情に訴えるとコロリといくタイプだ。甘い。砂糖のように甘いよ!
将来悪い男に引っかかったりしないか、あたしゃ今から心配だよ。なーんて。
チリリィィン……。
「ん?」
不意に、澄んだ鈴の音が聞こえた。
反射的に振り返った瞬間、あたしを猛烈な違和感が襲った。
無音の世界――。
それだけじゃない。
あれだけ大勢の人がいたのに、人っ子一人いない。
屋台も無人。参道も無人。
あたししかいない世界――。
「え? なんで……」
焦ってよろめいた瞬間、肩に手を乗せられた。
「ひぃ!」
「なによ、変な声出して」
ルナだ。
と同時に、一斉に音が戻ってくる。
参道には大勢の人が行き交い、どの屋台にも列ができている。
「ルナ……。あっれぇ?」
「どした?」
「いや、それがさ……。さっき鈴の音がしてね、それで……」
ふと妙な気配を感じたあたしは、ルナを置いて屋台群の裏に回った。
少し離れた藪の中に、桜色の着物を着た女の子が立っている。
女の子は、木々に隠れるようにして参道を行き交う人々をジーっと見ていた。
年齢はあたしと大差ないと思う。でも見たことない子だ。この辺の子じゃないのかな。
よく見ると、帯に小さな鈴がついている。
聞こえたのはこの音?
でも、なぜだろう。この子を見ていると心がさわぐ。
なぜだか放っておけなくなったあたしは、少し近づいたところでそっと話しかけてみた。
「ねぇ、あなた……誰? どこの子?」
あたしの声に反応したか、女の子が一瞬振り返った。
面長で、とてもきれいな顔だちをしている。
あたしがまじまじと見たからか、女の子はきびすをかえすと藪の奥に飛び込んだ。
「あ、待って!」
慌てて追いかけようとするあたしの手をルナが握る。
「ちょっとアサヒ、いきなりどうしたの。そっちは山だよ?」
「いや、女の子が、そこに!」
「はぁ? 誰もいなかったわよ?」
「いや、確かに……。あ、ほら鈴の音! また聞こえた」
ルナがいぶかしげな顔を向ける。
聞こえていないの?
「……行ってみる」
「アサヒ!」
あたしは人があふれている参道からそれると、藪をかきわけ、山に入った。
歩けないこともないけど、獣道とほとんど変わらない。
ルナが文句を言いつつ後ろからついてくる。
「これ本当に道かな。ねぇアサヒ、いい加減帰らない?」
「うーん、帰りたいのはやまやまなんだけどさー。なーんかこう、引っかかるっていうかさ……。ルナは帰っていいよ?」
「そういうわけにはいかないわよ。あんた放っておいたら何するか分かんないじゃないの。後始末するのわたしなんだから」
「ひっどー! ま、否定はしないけどさ。あ、出た」
雑草をかきわけて進んだあたしたちは、ほんの数分で苔に覆われた石段に出た。
大人だと二人すれ違うのは無理ってくらい細い。
「とりあえず……上かな?」
下るのは後回しにして階段を上がってみると、すぐにちょっとした空き地に出た。
広さは教室くらいで、土の地面だ。
周囲はぐるりと木で囲われてて、他に出口は見当たらない。
中央にミカン箱程度の小さな石製のほこらが置かれているだけで、他にはなーんにもない。
ただ、ほこらにはちゃんとしめ縄が張られているし、両隣の灯篭にもロウソクの明かりが灯っている。
こんな場所だけど、誰か管理している人がいるってことだ。
そして——。
さっきの女の子がほこらの横で一人、ポツンとたたずんでいた。
ルナが息を飲む。
「キツネのお面……」
「ほぉら、言ったとおりだったでしょ、ルナ。……お面?」
見ると、女の子はいつの間にかキツネのお面をかぶっていた。
顔の上半分がおおわれている。
でも、露天のじゃなくって、能とかで使っていそうな木製のお面だ。
チリリィィィィン……。
『みつけた……』
「……え?」
しゃべってない。あたしの心に直接声が響いてる。
女の子の頬を、涙が伝う。
思わず手が伸びる。
あたしの手の先で、少女の姿が霞のように消え失せる。
驚きに目を見開いたその瞬間――。
ほこらを中心に突如としてまばゆい光が発生し、その場に立ち尽くすあたしたちを飲み込んだのだった。
「んぁ?」
ピンク色のヘルメットを自転車のカゴに入れたあたしは、キョロキョロと辺りを見回した。
なーんか音がしたような気がしたんだけど……気のせい……かな?
まままま、そんなことより、そんなことより!
「臨時のおこづかいのおかげで、ふところがほっかほかだよぉ! これだけあれば……にゃっはは! さぁ、いざ戦場(屋台)へ!」
お気に入りのショルダーバッグをしっかりと肩にかけたあたしは、ワクワクに背中を押されつつ、神社の大鳥居をくぐって階段を上り始めた。
あたしの名前は、橘朝陽。小学五年生。
今日ばかりは無敵である。
いやいや、昨日までスッカラカンだった財布がこれだけふくらんでりゃ、テンションだって上がるってもんでしょ!
ここ神楽町は、日本中どこにでもある普通の町だ。
ただ、唯一の駅に快速が停まらないせいで、人も増えないし発展もしない。
実にショボい。
ぶっちゃけ過疎ってる。
でも、一年に一度、夏祭りの今日だけは別だ。
観光客の目的は、もちろんこの神社。
お稲荷さんを祀っているんだけど、すっごく昔からある神社なんだって。
おかげで道は混み混み、駐車場はパンパン。
参道だって歩くの大変なんだから。
うん、どーでもいいね!
いやいや、あたしたち地元の小学生だって、初詣と夏祭りの日以外はこんな場所こないってば。
だってさ、この神社、町を見下ろす山のてっぺんにあるんだよ?
五百段なんて馬っ鹿みたいに長い階段を普段っから登る気になる? ないない。
ってことで――。
ひぃひぃ言いながら上る大量の観光客に混じって階段を上ったあたしを、心地よい夜風と光あふれる大量の屋台群が待っていた。
神社へと続く石畳の参道には人がいっぱい。
どっちを見てもザワザワとにぎやかだ。
そしてこの、鼻をくすぐる美味しそうな匂いときたら!
「おおぅ、天国じゃぁ……」
目をらんらんと輝かせたあたしは、参道に沿ってズラリと並んだ屋台群に突入した。
ジャガバタ、からあげ、お好み焼き、焼きそば。
リンゴ飴にかき氷、わたあめにフランクフルト。
「うっはー! どれから行くか、迷ってしまうぅぅ!」
目を輝かせて片っ端から屋台を覗きこんでいたあたしは、とある屋台から目が離せなくなってしまった。
左はチョコバナナ屋さん、右は焼きイカ屋さんで、どっちも長い列ができているのに、間に挟まれたこのお店だけはガッラガラ。
ダボシャツを着た店員のおじさんがヒマそうに大あくびしちゃってる。
ツカツカっと近寄ったあたしは財布から千円札を抜き出すと、おじさんに話しかけた。
「おじさん、そこのピンクのヤツを一つ」
「お? おぉおぉいらっしゃい、お嬢ちゃん! え? これ買うのかい? そっかそっか。えーっと、千円だな」
「りょ!」
「待ちなさい!」
不意に横から伸びてきた手に千円札を持った左手をむんずとつかまれたあたしは、手の主を見た。
ここまで走ってきたのか、ロングヘアの美少女が肩で息をしている。
「なんだ月奈じゃん。早かったね」
「下にアサヒの自転車があったから、慌てて登ってきたのよ。あんたに無駄づかいさせないためにね!」
それは、クラス委員の成宮月奈だった。
幼稚園からの付き合いになる、あたしの一番の友だち。
ボケとツッコミ、というより保護者ってほうが近いかも?
ショートボブに白のデザインTシャツ、ピンク色のスカートの下に黒の七分丈レギンスと、よくいる普通の小学生女子のあたしと対照的に、ルナはサラっサラのロングヘアに黒のティアードワンピースで、どこから見ても完璧な美少女だった。
どうせどこかで会えるだろうとは思っていたけれど、ずいぶんとお早いおでましだったね。
「お嬢ちゃん、買うんかい? 買わないんかい?」
「あ、そうそう。えっとね、ピンクの……」
「買いません!」
「買うってばぁ! だってほら、めっちゃ可愛いじゃん!」
あたしは屋台に置いてある輪っかを指差した。
『スターライトブレスレット』と書かれたソレは、輪っかの部分に空気のつぶつぶの入った光るブレスレットだった。
色はピンク、ブルー、イエロー、グリーン、パープル、ホワイトの六種類。
暗いところで光らせると空気のつぶが星みたいに見えて、とってもきれいだ。
「あんた馬鹿なの? こんなの百円ショップで買えるじゃない」
「いや、買えないって。アレは単色だし、サイリウムでしょ? これは電池」
「電池交換できるの? 使い切りタイプじゃないの?」
「……さぁ」
「ほぉらごらんなさい! 今夜一晩で終わっちゃうようなものに千円も使ってどうするのよ!」
「嫌だ、買うぅぅぅ! あ、そうだ。ルナも買わない? ほら、色違いで。友情の証ってやつ。ね? ね?」
「はぁ? 千円よ!? 買うわけないでしょ!」
「そんなこと言わずにさ、お友だち! フレンド! ズッ友! 幼なじみ!」
「買わないったら!!」
五分後――。
「まいどあり!」
ほおづえをつきながらあたしとルナのやりとりを見ていた店のおじさんが、ニコニコしながらあたしたちに光る輪っかを渡してくれた。
千円札二枚と引き換えに。
あたしの説得を受け続けたルナが、あえなく折れたのだ。
ミイラ取りがミイラになるとはよく言ったものだよね、あっはっは。
ちなみにあたしはピンク。ルナはブルー。
二個セットだから、両手首にピンク色の輪っかが光っている。
見ると、ルナがめっちゃ悔しそうな顔をしている。
「あーもぅ! わたしってばなんでこんなに流されやすいんだろう! こんな子供だましに千円も使うだなんて!」
「いいじゃん、子どもなんだから。ほら、キラっキラだよ? かっわいぃねぇぇ! あ、パインだ。パイン売ってるよ? パイン買おう!」
あたしは次の店で冷やしパインを買うと、早速かじった。
ルナは冷やしキュウリ。チョイスが渋い。
ルナは学級委員をやるだけあって普段とてもしっかりしているが、粘り強く説得すると意外とあっさり屈する。
情に訴えるとコロリといくタイプだ。甘い。砂糖のように甘いよ!
将来悪い男に引っかかったりしないか、あたしゃ今から心配だよ。なーんて。
チリリィィン……。
「ん?」
不意に、澄んだ鈴の音が聞こえた。
反射的に振り返った瞬間、あたしを猛烈な違和感が襲った。
無音の世界――。
それだけじゃない。
あれだけ大勢の人がいたのに、人っ子一人いない。
屋台も無人。参道も無人。
あたししかいない世界――。
「え? なんで……」
焦ってよろめいた瞬間、肩に手を乗せられた。
「ひぃ!」
「なによ、変な声出して」
ルナだ。
と同時に、一斉に音が戻ってくる。
参道には大勢の人が行き交い、どの屋台にも列ができている。
「ルナ……。あっれぇ?」
「どした?」
「いや、それがさ……。さっき鈴の音がしてね、それで……」
ふと妙な気配を感じたあたしは、ルナを置いて屋台群の裏に回った。
少し離れた藪の中に、桜色の着物を着た女の子が立っている。
女の子は、木々に隠れるようにして参道を行き交う人々をジーっと見ていた。
年齢はあたしと大差ないと思う。でも見たことない子だ。この辺の子じゃないのかな。
よく見ると、帯に小さな鈴がついている。
聞こえたのはこの音?
でも、なぜだろう。この子を見ていると心がさわぐ。
なぜだか放っておけなくなったあたしは、少し近づいたところでそっと話しかけてみた。
「ねぇ、あなた……誰? どこの子?」
あたしの声に反応したか、女の子が一瞬振り返った。
面長で、とてもきれいな顔だちをしている。
あたしがまじまじと見たからか、女の子はきびすをかえすと藪の奥に飛び込んだ。
「あ、待って!」
慌てて追いかけようとするあたしの手をルナが握る。
「ちょっとアサヒ、いきなりどうしたの。そっちは山だよ?」
「いや、女の子が、そこに!」
「はぁ? 誰もいなかったわよ?」
「いや、確かに……。あ、ほら鈴の音! また聞こえた」
ルナがいぶかしげな顔を向ける。
聞こえていないの?
「……行ってみる」
「アサヒ!」
あたしは人があふれている参道からそれると、藪をかきわけ、山に入った。
歩けないこともないけど、獣道とほとんど変わらない。
ルナが文句を言いつつ後ろからついてくる。
「これ本当に道かな。ねぇアサヒ、いい加減帰らない?」
「うーん、帰りたいのはやまやまなんだけどさー。なーんかこう、引っかかるっていうかさ……。ルナは帰っていいよ?」
「そういうわけにはいかないわよ。あんた放っておいたら何するか分かんないじゃないの。後始末するのわたしなんだから」
「ひっどー! ま、否定はしないけどさ。あ、出た」
雑草をかきわけて進んだあたしたちは、ほんの数分で苔に覆われた石段に出た。
大人だと二人すれ違うのは無理ってくらい細い。
「とりあえず……上かな?」
下るのは後回しにして階段を上がってみると、すぐにちょっとした空き地に出た。
広さは教室くらいで、土の地面だ。
周囲はぐるりと木で囲われてて、他に出口は見当たらない。
中央にミカン箱程度の小さな石製のほこらが置かれているだけで、他にはなーんにもない。
ただ、ほこらにはちゃんとしめ縄が張られているし、両隣の灯篭にもロウソクの明かりが灯っている。
こんな場所だけど、誰か管理している人がいるってことだ。
そして——。
さっきの女の子がほこらの横で一人、ポツンとたたずんでいた。
ルナが息を飲む。
「キツネのお面……」
「ほぉら、言ったとおりだったでしょ、ルナ。……お面?」
見ると、女の子はいつの間にかキツネのお面をかぶっていた。
顔の上半分がおおわれている。
でも、露天のじゃなくって、能とかで使っていそうな木製のお面だ。
チリリィィィィン……。
『みつけた……』
「……え?」
しゃべってない。あたしの心に直接声が響いてる。
女の子の頬を、涙が伝う。
思わず手が伸びる。
あたしの手の先で、少女の姿が霞のように消え失せる。
驚きに目を見開いたその瞬間――。
ほこらを中心に突如としてまばゆい光が発生し、その場に立ち尽くすあたしたちを飲み込んだのだった。
< 1 / 17 >