身代わり花嫁は無愛想なエリート外科医(超甘党)からの極甘溺愛を刻まれる
(すっごい食べっぷりだ)

 どれくらいかと言うと、この人の為ならいくらでも料理を作りたくなる位。たくさん食べて午後に備えてほしいと願いながら私はレジへと戻ったのだった。

◇ ◇ ◇

 いよいよ引っ越しの日当日。この日はシュクレの定休日なので時間の進みがゆっくりな印象を受ける。
 流はあれからどうなったのかは聞いていない。彼の父親辺りから説明があるかと思ったけど、それどころじゃないんだろう。それはそれで優先度が下に見られているのも相まってあんまり良い感じはしないが。
 翠家の人と結婚したのか? みたいなツッコミも受けるかと思ったけどまだない。おそらく口止めされているのだろう。

「お父さん、手伝いありがとう」

 グレー色のスーツケースと手提げバッグ、こげ茶色のリュックを背負う私は玄関まで見送ってくれた父さんに改めて別れを告げる。とはいってもシュクレでのお仕事はこれからも続ける予定だし、彼の教えをまだまだ受けなければ、立派な菓子職人になれない。だから今生の別れではないのだけれども、父さんの目元はうっすら潤んでいる。

「もう、父さん……また明日会えるから大丈夫だって」
「っすまん……なんだか、感極まって」

 持っていた手提げバッグから最近はやりのキャラクターがあしらわれたポケットティッシュを差し出すと、いいって。と右手を左右に振った。

「元気でな。佑太さんに迷惑かけるなよ」
「わかってるって」

 ここで自宅の目の前に黒いタクシーがぴたりと止まる。中から出てきたのは佑太さんだった。濃いブラウンカラーのジャケットに白いカッターシャツとパンツの組み合わせは、とても上品で御曹司らしい。モサモサした髪もお見合いの時同様にちゃんとセットされている。

「佑太さん……!」
「心配になって迎えに来た。大丈夫か?」

 相変わらず口数は少ないし仏頂面も変わりない。でも、声質はだいぶ丸くなった。
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