ながされて、絆されて、ふりむいて
お店の雰囲気も、挙げられたメニューもすべてに女性の影が見える。駅前大通りの一本裏道、地下一階にちょこんと存在するこのお店は女性客とカップルらしき男女ペアで溢れていた。
通された二人掛けのテーブル席の上、メニュー表と同じ紙と字体で「ナナミさま ご来店ありがとうございます」と書かれていた。
丁寧でおしゃれな雰囲気はわたし好みでもあり、世の女の子が好みそうなものだった。
「ぜんぶ気になるので、頼んじゃいます」
「ん、頼みな頼みなー」
程なくしてジョッキがふたつ運ばれてきた。荒くないきめ細やかな泡も、すきな注ぎかただ。
片手じゃ心許ないジョッキにもう片方を添えて、彼の言葉に合わせて控えめにそれを重ねる。
「乾杯、お疲れさま」
「お疲れさまです」
「改めてありがとう、定期預金のこと」
ひとくちで泡部分をすべて飲み切った名波さんに伝えられる感謝で思い出す。もともとこの飲みは、わたしへのお礼という名目で始まったものだった。