スケッチブック
【鉛色】
――芽衣子
イヤホンの向こうで、コントローラーのカチャカチャという軽快な音がした。
「こんばんは、作楪です。今日もまったりやっていこうか」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけゆるむ。
理由はわからない。ただ、毎日この時間になると、
私はこの配信を探してしまう。
ゲームをしている訳じゃなかったけれど、自称ゲーム配信者と名乗りゲーム自体は目的ではなく仲間作りの手段だ!と熱く語るこのおばちゃん配信者に惚れ込んでいた。
居心地がいいと言うか、姉の様でもあり母の様な不思議な存在だった。
今日もまったりとBGM代わりに聴きながら、過ごすとしようか…
机の上には、開いたままのスケッチブック。
授業中に描きかけたページを、そっと押さえる。
鉛筆は、まだ握ったままだった。
画用紙の上には、窓際の席に座る男の子。
輪郭は薄くて、線は頼りない。
何度も描き直したせいで、少し灰色にくすんでいる。
——声なんて、かけられない。
同じ教室にいるのに、
名前を呼ぶだけの距離が、どうしても遠かった。
だから私は、描く。
話しかける代わりに、鉛筆を動かす。
「焦らなくていいよ。
下書きの線が一番、大事だったりするからさ」
作楪の何気ない一言が、
まるでこのページを見られているみたいで、
思わず鉛筆を止めた。
細くて、自信のない線。
それでも、彼を追う私の目だけは、誤魔化せたりしないよね。
どうしようもなく正直で、いきいきしている。
——消せる線だから。
まだ、間違ってもいい。
私はそう言い聞かせて、
もう一度、鉛筆を走らせた。
――芽衣子
イヤホンの向こうで、コントローラーのカチャカチャという軽快な音がした。
「こんばんは、作楪です。今日もまったりやっていこうか」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけゆるむ。
理由はわからない。ただ、毎日この時間になると、
私はこの配信を探してしまう。
ゲームをしている訳じゃなかったけれど、自称ゲーム配信者と名乗りゲーム自体は目的ではなく仲間作りの手段だ!と熱く語るこのおばちゃん配信者に惚れ込んでいた。
居心地がいいと言うか、姉の様でもあり母の様な不思議な存在だった。
今日もまったりとBGM代わりに聴きながら、過ごすとしようか…
机の上には、開いたままのスケッチブック。
授業中に描きかけたページを、そっと押さえる。
鉛筆は、まだ握ったままだった。
画用紙の上には、窓際の席に座る男の子。
輪郭は薄くて、線は頼りない。
何度も描き直したせいで、少し灰色にくすんでいる。
——声なんて、かけられない。
同じ教室にいるのに、
名前を呼ぶだけの距離が、どうしても遠かった。
だから私は、描く。
話しかける代わりに、鉛筆を動かす。
「焦らなくていいよ。
下書きの線が一番、大事だったりするからさ」
作楪の何気ない一言が、
まるでこのページを見られているみたいで、
思わず鉛筆を止めた。
細くて、自信のない線。
それでも、彼を追う私の目だけは、誤魔化せたりしないよね。
どうしようもなく正直で、いきいきしている。
——消せる線だから。
まだ、間違ってもいい。
私はそう言い聞かせて、
もう一度、鉛筆を走らせた。