悪女と罵られたので退場させていただきます!

11.父公爵の改革①

 馬車のカーテンの隙間からこっそりと街の様子を見るにつけ溜息がでます。経済が活性化すると共に貧富の格差は広がるばかり。街を歩く紳士は血色のいい顔とでっぷりと膨らんだお腹をしている一方で、労働階級の者はげっそりとやせ細っている者が多いのです。職にあぶれた者は王都を目指します。そこでも職にありつかない者は年々増えている始末。それでも止まらない王都の人口増加。十代にならない少年少女が物乞いをする姿など、もはや珍しくありません。御者に物乞いする子供達。それを鞭で払いのける御者。スラムは拡大する一方。宿代が払えずに路上生活する若者たち。夢や希望を見いだせない者達は次々とお酒や薬に逃げていってしまう。

 この国の現状はあまりにも酷かった。

 それでも昔に比べたらマシだと言うのですから何とも言い難いものがあります。
 先々代の時代まで各国で戦争が繰り広げられていた事がそもそもの問題でした。辛うじて勝利側に組できたとはいえ、それで莫大な戦費がなくなるというわけではありません。戦で失った命が戻るはずもなく、戦地から帰ってこられても体の一部が欠損している元兵士たちの見舞金などで財政は逼迫(ひっぱく)。それに加えて、長い戦争期間で国は「少数で経済をまわす」「戦争需要で雇用を生み出している」という状況だったのです。その二つが消失して、経済そのものがガタガタになっていました。とはいえ、それは過去の話。

 私の父が「宰相位」に就いた時、大勢の民衆が喜びに満ち溢れたそうです。「これでこの国は救われる!」と。
 それだけ現実は深刻だったのです。
 また、ヴァレリー公爵領の発展と民衆の豊かな暮らしぶりは王都を始めとする他領では御伽噺の如く語られていたのもあるでしょう。

 彼らは思った筈です。
 これで自分達も豊かになれると――

 父の就任に希望を託したのには、そういったどうしようもない背景があったからに他なりません。
 現に父は「宰相位」に任命された時に宣言いたしました。
 
『才能のある者を埋もれさせる社会は間違っている。身分の貴賤は問わない。実力のある者がそれ相応の地位に就くことこそ健全な社会が実現できるのだ』

 若き宰相の力強い演説は国中に大きな感動と希望をもたらしました。
 以来、父は実力主義の名の下、才能のある者を積極的に採用し、国の発展に努めて参りました。
 実力ありきの国に生まれ変わる。
 そう肌で感じた民衆は多い。だからこそ父は民衆に熱狂的に支持されたのです。
 宰相ならば、このひへい疲弊(ひへい)した国を生まれ変わらせてくれるという期待。それは労働階級を中心とした民衆の希望だったのかもしれません。
 
 
『今』よりも良き国へ――

 
 民衆が期待した通り、父は辣腕をふるい続け鮮烈な改革を推し進めていったのです。

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