月のうさぎと地上の雨男

07.次の後にも次があって、それが続けばいいのに

 車に戻ると、猿渡(さるわたり)(わたる)のマンションへとハンドルを切った。


「渡くんのご家族に挨拶に行くわね」

「お嬢様が突然訪問されますと、雨水(うすい)様のご家族も対応にお困りでしょうから、わたくしがお伺いいたします」

「でも」

「お嬢様」

「……わかりました」


 凪は不満そうに唇を尖らせ、握ったままの渡の手をつなぎ直した。

 やがて車はマンションのロータリーに入った。


「雨水様、ご一緒させていただきます」

「わかりました。えっと、凪。今日はありがとう。デートに誘ってくれて嬉しかった」

「うん! また行こうね」


 ニコニコと渡を見上げる凪の頭を撫でて、車を降りる。

 移動中に家へ連絡すべきだったと渡が気づいたのは、エレベーターに乗ってからだった。


「ただいま……あのさ、親父いる?」


 渡が帰宅すると、蛙前(かわずまえ)(しずく)が出迎えた。

 雫は兄からデートのことを聞き出そうと待ち構えていたらしい。


「旦那様はお戻りではございません。まだ数刻かかるということです」

「じゃあ母さんは?」

「いるわよ。さあさあ、吐きなさいよ」


 雫と同じく待ち構えていたらしい歌帆(かほ)が出てきた。

 渡は歌帆と雫を宥めて振り返った。


「ちょ、待って。お客様いらっしゃるから」

「夜分に申し訳ございません」

「……ようこそおいで下さいました。蛙前、旦那様に連絡を」

「承知いたしました奥様」


 歌帆がスッと外向きの顔になり、蛙前が頭を下げて下がった。

 猿渡は人の良さそうな笑みを浮かべた。


「本日はお詫びに参りましたのでお気遣いは不要でございます。夜遅くまでご子息をお借りしてしまい申し訳ございません。こちら、心ばかりの品ではございますがお納めください」


 差し出された熨斗(のし)で包まれた化粧箱に雫が「ヒュッ」と息を吸った。

 それくらい、有名な高級菓子折だ。


「わざわざこのような品をご用意いただきまして、ありがとうございます」

「とんでもございません。我が主のワガママにご子息を付きあわせてしまい、申し訳なく思いますが、今後とも、よろしくお願いいたします」


 その後、猿渡は歌帆と二言三言交わして帰って行った。

 渡はともかく風呂に向かう。

 風呂から上がると(ゆずる)が帰宅していて、ダイニングで歌帆と話していた。

 雫はリビングでスマホをいじりながら、先ほどの手土産を食べていた。

 少し迷ってから、渡はダイニングテーブルに着いた。


< 24 / 69 >

この作品をシェア

pagetop