月のうさぎと地上の雨男
「おかえり」


 渡が譲に声をかけると、渋い顔をされた。


「ただいま。一足遅かったな」

「凪……月詠(つくよみ)のお嬢様も親父に挨拶したがってたよ」

「そうか。いや、いずれは必要になるんだろうが……」


 蛙前が渡と譲に夕飯を出した。

 食べながら、渡は今日あったことを説明していった。

 もちろん凪に言われたことを全部は言わない。

 普通に恥ずかしいので。


「うーん。女性にそこまで言わせて、家柄が釣り合いませんのでと断るのは……いくらなんでも」

「そうねえ。それに、全く完全に釣り合わないって訳でもないのよ」

「そこなんだよなあ」


 譲と歌帆が頭を悩ませている隣で、渡は早めに夕飯を終えた。


「ともかく、現状こちらから手を打つのは得策ではなさそうだ。渡、お前は月詠のお嬢様のこと、嫌いじゃないんだろう?」

「嫌いじゃないよ」

「ならいい」


 譲はホッとしたように笑って、食事を続ける。

 渡は雫から菓子をいくつかもらって自室に戻った。

 スマホを見ると凪からメッセージが届いている。


『今日はありがとう。さっき別れたばかりだけど、もう寂しいな』


 渡はキーボードの上で指をさまよわせた。

 今まで彼女どころか好きな女の子すらいなかった渡には、何と返せばいいのかまるでわからなかった。


「……俺も寂しい」


 そう送ってから、手をグッと握って、また開く。

 そんなに長く握っていたわけではないのに、手が寂しく感じた。

 すぐにスマホが震えた。


『また迎えに行くね』

「次は連絡してから来てほしい」

『そうする。おやすみ、渡くん』

「おやすみ」


 渡は部屋の照明を消す。

 スマホをベッドに置いて、歯を磨いて、まだ十時前だけど横になった。

 凪のことだけ考えて眠ってしまいたかった。


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