月のうさぎと地上の雨男
 「ともかく」と歌帆は再び椅子を回して、パソコンの方へ向き直った。


「話はわかりました。貴生さんと佳貴くんの鬱憤もね。美佳さんと共有しておくから渡はシャワー浴びてらっしゃいな。ひどい顔だし、冷えたでしょう」

「……うん。失礼します」


 渡は頭を下げて歌帆の部屋を出た。

 蛙前に声をかけてシャワーを浴びた。

 着替えてリビングへ向かうと、透と雫があれこれ散らかしていた。


「なにこれ」

「土産。渡も好きなの持ってっていいよ」


 渡は腰を下ろし、床に散らばった品を拾った。

 呪われそうな木彫りの人形に、木製ビーズのブレスレット、用途の分からないストラップ、染め物のハンカチ、色とりどりの小瓶が並ぶ。


「あ、その瓶は置いといて、あとで親父と飲むから」

「お酒?」

「そうそう。ピンクのやつはジュースだから渡と雫で飲んでいいよ。赤いのは調味料。蛙前(かわずまえ)、土産ー」

「あらあら、わたくしにまで?」


 木のブレスレットを手に取ると、その周囲に似たようなアクセサリーがいくつも転がっていた。

 渡は寄せ木細工風のバングルを拾い上げた。……月と雫を模したビーズが揺れていた。


「それおしゃれだよな。凪ちゃんにあげてもいいぞ」

「そうさせてもらおうかな。ありがとう、兄さん」

「園佳さんにもお土産買ってきたから、さっき持って行けばよかった」

「あの空気の中で渡すつもりだったの?」

「俺、そういうの気にしねえし」

「それが兄さんのいいところかもね」

「だろー?」


 バングルとハンカチを受け取り、渡は自室へ戻った。

 凪に電話をかけたが応答はなく、代わりにバングルの写真を撮って送っておいた。

 返事が届いたのは三日後で、そこには見合いの日付と場所が記されていた。
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