叶うならあの日から
 全て、俺のせいなんだ。

俺が、あの時、君を助けられていれば。

君は痛みを知らずに済んだのに。

 今度こそ、しあわせを奪わせないからー。



 高校生になったら、自然と恋が始まると思ってた。

 しかしそれは少女漫画限定なのだと思い知った高校1年生。

 私の名前は春優李。趣味は漫画を読むこと。

 漫画みたいな出会いを求め、私は電車通学ができる高校を選んだ。

 なのに私は今、スーツを着た会社員さん?の背中に背負っているリュックに押しつぶされそうになっている。

 はぁ、こんなことなら近場の高校にすればよかったなぁ。

 ふと私の視界に、耳にピアスとイヤホンをつけ、背中をピンとして、スマホを見ている男子が入る。

 ちょっとぼさっとした金髪、顔面国宝級の顔が、いまハマってるマンガのキャラに似ていて、思わず息を呑む。

 ていうか、制服同じ!?学校一緒じゃん!

あぁ、押しつぶされずに学校まで行けるなんていいなぁ。

 ふと彼がこちらを見た。

「ーっ!」

 目が合うとは思っていなかったので、ドキッとしてしまう。

 彼が手招きをする。

 「すみません、通ります」とひたすら言いながら人々を押しのけ、彼のところへ行った。

「な、何でしょうか?」

「ここ、座れば?」

 譲ってくれるってことかな?

「ありがたいんですけど、そしたらあなたはー」

「たぶん押しつぶされるだろうね。でも君みたいな子の役に立てるなら嬉しいな。」

う、笑顔がまぶしい‥‥‥。

「じゃ、じゃぁ、お言葉に甘えて座らせていただきます。
ほんとにありがとうございます。」

「うん。じゃ、おとなしく座って学校に行きなね?」

 そう言って去ろうとする彼に私は

「あ、あの!お名前聞いてもいいですか?」

と思い切って聞いた。

「え。」

 やばい「コイツ何言ってるんだ」みたいな顔してる。もしかして私、欲張りすぎた?!

「やっぱだいじょー‥‥‥」

「1年2組、いくさかりおん。」

 神様ありがとうございます。今日が人生で1番最高です。

 1年2組の、いくさか、りおんくん。りおんくんかぁ。私と同じクラスじゃー‥ーん??まって1年2組って言った・・?

「一応同じクラスなんだけど、春優李ちゃん?」

「えぇっと、もしかして入学式から一度も来てない、私の隣の席の、生坂凛音くんだったりー」

「そう、その通り。優李ちゃんと隣の席の、生坂凛音。」

「えええええ!!??」

「ちょバカうるさい‥‥‥!」

 焦った顔をした生坂くんが私の口を塞ぐ。

 生坂くんの後ろの人、なんなら電車の中人たちが私たちをガン見していた。

あ、やば。ここ電車の中じゃん。

「まぁとりあえずあとは学校ではなそっか。またね」

そう言って彼は人混みの中に消えていった。



「ー最後に、ここは社会科学準備室ですね。生坂くん、なんとなくどこに何があるかわかりました?」

「うん。ありがと。」

 副学級委員長の私は今生坂くんに学校案内をしている。

 本当に隣の席で、ホームルーム中にちょっと話していたら先生に

「春さん生坂くんと仲いいんですね!次の授業の時間使っていいので学校案内してあげてください。」

と言われたのだ。

断る理由はないから引き受けて、今に至る。

「良かったです。じゃぁ話は変わりますが、今朝はありがとうございました。おかげで快適に学校に来れました。」

「それは良かった。けどさー‥‥‥」

 生坂くんがじっと私を見つめる。

「な、なんですか‥‥‥?」

「朝も今も思ったけど、苗字呼び&敬語やめよ?よそよそしい感じだからさ。」

「え、でもー」

「俺が、名前で呼んでほしい。無理にとは言わないけどさ。」

 一瞬雰囲気が変わったような気がした。

「えーっとわかった。いくさー凛音くん。」

「んー呼び捨てで呼んでほしかったけどーま、いっか!上出来上出来~」

 そう言って私の頭をわしゃわしゃなでた。

 電車の中でも思ったけど、凛音くん距離感バグってない?

「そういえばさ、優李ちゃんて副学級委員長なんだね。」

「あぁうん。そうだよ。」

「よくもまぁそんなめんどいのをやるよね~。俺だったら絶対やんないな~。」

「や、立候補じゃなくて、押し付けられる感じで副学級委員長になったんだ。」

 ぴくっと凛音くんの肩が反応する。

「押し付けられた?」

「うん。「真面目そうな春さんがいいでーす」って感じで。」

凛音くんが、私の返事を聞いた瞬間、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

 しばらく沈黙が続く。

もしかして、語りすぎてうざいやつって思われたかな?!

「ごめー」

「‥‥‥ー変わってないんだな」

「え?」

 今、なんてー‥‥‥

凛音くんは一歩近づいた。

近すぎて、息がかかるーその寸前まで近づいて、そこで止まった。

凛音くんは何もせず、ただ私の目を見ていた。

 逃げなきゃ、と思ったのに、足が進むことを拒否する。

 それに、なぜか、凛音くんのこの顔が懐かしいと思ってしまった。

「り、凛音くん‥‥‥?」

心臓の音がやけに大きい。

 しばらくの沈黙の後、凛音くんが言った。

「誰にでも優しいのは優李のいいところだけど、その優しさが、
自分を傷つけることもあるのを忘れるなよ?」

口調は強かったけど、子供に言い聞かせるように、優しかった。

 そして最後に泣きそうで、切実な顔をして

「頼むから、傷つかないで‥‥‥。」

と彼は言った。

その瞬間、

『ごめん、優李ー』

そんな声が、耳の奥で重なった。

―どうしてだろう。

 初めて会ったはずなのに、

彼のその顔も、ひどく懐かしく思った。



 気づいたら窓の外では雨が降っていた。

「り、凛音くー‥‥‥。」

「さ、教室もどろっか。」

 さっきの出来事がなかったかのように平然と教室に戻ろうとしている凛音くん。

 呼吸が浅くなる。

 ー私たち、今日が初対面だよね‥‥‥?

「あの、凛音くん!」

「優李ちゃんどした?」

 さっきの様子とは違って軽くて明るい感じの凛音くんだ。

「えっと‥‥‥。私たちって、
会うの今日が初めてじゃないの‥‥‥?」

「ーなんで?」

「いやだってー‥‥‥」

「そんなことよりさ、はやく教室もどろ?
遅かったら怒られちゃうでしょ?」

 振り返らずにそう答えて生坂くんはずんずん進んでいく。

『ウザイんだよ!』

『このギゼンシャが、空気よめよ』

『優李?そんな、やだよ……
優李、優李!!』

 ズキッと頭に痛みが走る。

今のは、なに‥‥‥?

 気づいたら教室の目の前だった。

「優李ちゃんありがとね。
改めてこれからよろしく。」

 さっきのことがなかったかのように笑みを浮かべて手を差し伸べてくる。

けれど、その目に光は宿っていなかった。

 雨音だけが大きく聞こえる。

ーあなたは私の何を知っているの‥‥‥?

 差し出された手を、恐る恐る冷たくなった私の手で握り返した。



 もう君は覚えていない。

「やめて!」と叫んだ日々も。

「明日が怖い」と泣いて寝れなかった日々も。

それでいいんだ。

 たとえ、

「凛音、公園に遊びに行こうよ!」と無邪気に笑いかけてくれたこと。

「凛音の絵何かわかんない~」とバカにしてきたこと。

俺との記憶を忘れていても。


 俺が、君にかばわれたから。

 助けられなかったから。

 その代償なんだ。


 だからせめて、今度こそ、しあわせを俺に守らせて。


そんな意味を込めて、

「ここ、座れば?」

目の前にいる、俺を忘れた大好きな幼馴染に
俺はそう言った。



これは、過去を手放せない男の子と、大事な何かを失ったことさえ知らない女の子の物語。
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