Bella Notte
 そういって、本当に嬉しそうに笑う楓。

「ちょっとしゃがんでよ」
 なんて、可愛い事を言ってくる。

 この頃にはもうすでに今思うと淡い恋が芽生え始めていたのかもしれない。

 それから中学生になり、長瀬の付き合おうと言う提案と井川の登場が重なって、オレの恋は始まった。

 淡い恋が確かな物に形を成していくその過程で、沢山の感情と出会い。

 楓が人生で一番つらい時に傍にいると約束してからは、
 その恋心のせいでこの関係を崩してしまっていいのかと随分悩んだ。

 それでも捨てられない想いは、ずっと胸の中にあって。

 ずるずると悪友という名の友人を演じてきた。

 楓を腕の中に閉じ込めたまま一人時間を巻き戻して思い出に浸っていた。

「ね、もしかして、健人さんに抱きしめられた?」

 楓から海を連想させるマリンノートが微かに香る。
 この香りは健人さんが好んでつける香り。

 楓の親代わりで、女性を好きになる事はないって昔から知っている。

 それにしても近すぎる2人の距離にいつも、やきもちを妬いていた日々が懐かしい。

 思わず抱きしめる腕に力が入りすぎて、楓がフッと息をつくのが分かる。
 腕を緩めると、苦しかったのか涙目で見上げてきた。

「うん、そうだよ」
 何を今さらと隠しもしないその様子に思わず笑ってしまった。

「今度からは、もう軽々しく抱きしめられないで」
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