Bella Notte
 静かな時間が流れるこの空間は、あの頃のまま時間が止まったような気にさせる。

 そんな空間に1人健人くんだけが取り残されているようで、いつも焦ってしまう。

 きっと、健人くんの人生は私なんかが計り知れないもので、だから、いつも子供扱いされて終わり。

「大丈夫、きっと全て上手くいくから」

 預言者めいたことを言いながら笑う健人くんを前に、本当に何も言えなくなってしまい。

「……そうだといいな……」

 呟いて俯いていると、大きくて、暖かな手のひらが頭を2度優しく撫でて。

「前も言ったけれど、いつだって楓ちゃんの味方がここにいるって忘れないで」

 思わず、涙が一粒流れた。
 それを隠すように、立ち上がった。

「ご馳走さま、ありがとう」

 そそくさと、荷物をまとめるために自分の部屋へ逃げていった。
(本当、子供だよね。健人くん、本当にありがとう)

「行ってらっしゃい」

 大学へ通うのにこの街をでたあの日のように家の敷地ギリギリまで見送ってくれた。

 キャリーケースを受け取って、泣かないように笑顔を作り。
「健人くん、行ってきます」
 そう言って頷く。

 それもあの日と同じ。

 夢や希望に溢れて、喜びが半分、でも住み慣れた家を離れて。
 何より家族の健人くんと離れるのがすごく寂しくて。

 いつもの帰省と違ってこんなに感傷的になるのは何故だろう。
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