Bella Notte
 そう考えていると。

「楓ちゃん、頑張りすぎないで」

 あぁそうか、心が疲れているんだと思い当たる。

「うん、また帰ってくるからそれまで元気でね」

 そう言って、あの日歩き始めた道をまた歩き出す。

 しばらく進んで振り返ると、健人くんは大きく手を振ってくれて。
 思わず泣きそうになる。

「楓ちゃんも、元気でね」

 そう言って。

***

 故郷から、東京へ帰ろうと電車を乗り継ぎ、空港へ降り立ったその日。
 桜井の隠し切れないオーラは、まばらな空港内では目立ちすぎて。

 なるべく他人の体で距離を空けるのに、桜井は気にも留めない様子で距離を詰めてくる。
 結構ギリギリにチェックインを済ませたから、搭乗口近くで待つことにした。

 周りの目が……。

 視線で訴えても。

「大丈夫」
 そう言って爽やかに笑っている桜井の向こうから声がかかる。


「あれ、楓先輩?」

 そう言って笑顔で近づいてくる可愛いの形容詞が似合う男の人。
 とは言っても、桜井に負けないくらい背は高いし、スタイル良くて……。

 全く心当たりのない風に首を傾げていると。

「生徒会で一緒だった、書記の藤田ですよ」

 忘れるなんて酷い、とキュートな笑顔で言われて。

 咄嗟に営業スマイルで、隣の桜井を何でもない様に振る舞う。

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