Bella Notte
 口元を塞がれたまま頷いてくれたので、ホッとして手を離した。

「じゃあ、まだ俺にもチャンスあるのかな」

 そう言って笑う藤ちゃんの仕草は、あの頃と違ってすごく男の人で。

 ミステリアスな猫目から放たれる視線に囚われると、何故か少し怖くて身動きが取れない。

 その隙に、右手に名刺らしき紙切れを押し付けられて。

「じゃあ、またね楓先輩、桜井センパイも、()()

 そう言って去っていく。
 ふと、後ろからドス黒い何かを感じて思わず振り返った。

「何、口説かれて嬉しいの」

 いつの間にか戻ってきた桜井が、感情の読めない表情のままこちらに視線をよこしてくる。

「大変お待たせいたしました、10時発〇〇空港行きAIR STAR999便はただいまよりご搭乗のご案内を開始いたします……」

 タイミングいいのか悪いのか分からない。
 アナウンスが聞こえてきた。

「桜井、とにかく行こう」

 そう言って背中を押した。



































































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