Bella Notte
(なんか、藤ちゃんがちゃんと副操縦士やってたし)

 部屋のベッドに座って少しゆっくりしているとそんな失礼な考えが浮かんだ。
 メイクを入念に落としてから、バスルームへ向かった。

 シャワーを浴びた後、小腹が空いたので遅いブランチを、と行きつけのカフェへ向かう事にした。
 身支度をして、薄くメイクをしてホテルのロビーへ向かう。

 平日の昼間、ホテルのロビーにはそれなりに人はいる。
 ヒールでのフライトで足が限界まで疲れたので、ローヒールパンプスに綺麗めセットアップを合わせシックなトレンチコートを羽織った。

 晩秋のパリは肌寒く、油断すると体調を崩しやすい。

「楓先輩」
 フライト前に聞いたあの声が、雑踏に紛れて聞こえた気がして、振り返った。
「藤田副操縦士、お疲れ様です」
 キュートな笑顔でこちらへやってくる藤ちゃんが見えて思わず後退りそうになる。

「お疲れ様」
 
「なんか、他人行儀で悲しいです、先輩」
 そう言って少し悲しそうな表情で呟くのが聞こえる距離。

 そう言われても、ここはクルーの泊まるホテルで、どこで誰と遭遇するのか分からない。
 実際藤ちゃんともこうして……。

「長時間のフライトでお疲れではないですか、ゆっくりお休みになってください」
 営業スマイルで、予防線を張ったつもりだ。

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