Bella Notte
 そう言って姿勢を正してお礼を言うと。

「楓先輩。もう……会えないんですか?」

 今にも泣き出しそうな顔を見ると、もらい泣きしそうになって。

 今までで最高の笑顔を作った。
「ええ、だから藤ちゃん、元気でね。頑張って機長になってね。そしたらいつかその飛行機にお客として乗るから」

 グッと拳を握って、俯く藤ちゃんが顔を上げたと思ったら。

 逞しい腕に引き寄せられて、抵抗する間もなく抱きしめられる。
 遠くから女性達の興奮した悲鳴が聞こえてくる。

 あまりに突然の事に呆然としていた。

 「楓!」

 聞きたくて焦がれていた声が響く。

 それまで以上に黄色い悲鳴と歓声が一気に広がる。

 「……遅いよ。桜井センパイ」

 抱きしめながらそっと呟く藤ちゃんの声が耳に届いて。
 「え?藤ちゃんまさか……」
 スッと腕を解放されて、背中を優しく押してくれた。
 「行って、楓先輩。この前勝手にキスしちゃったお詫びです」
 あの頃の藤ちゃんが重なって見える。
 「皆さん、ここからはプライベートなので、撮影NGですよ!」
 そう叫んでゆっくりと離れていく藤ちゃん。

 「楓、行こう」
 大きくて暖かい手が私の手を優しく包み込む。
 もう何がどうなっているのか、分からないまま桜井の背中をただ見つめてなすがまま。

 振り返る藤田。

 「楓先輩、大好きでした。幸せになって」

< 185 / 198 >

この作品をシェア

pagetop