Bella Notte
 ちょっとした心の混乱が起きてしまって余裕がない。

 その横で。

「まったく。人の気も知らないで」

 顔を掌で覆った桜井が天を仰いでる。
 どう言う意味か聞いてみたかったけど、とりあえず。

「桜井、酔ったからって絡まないでね」

 なんとか笑顔でごまかした。
 

 ——————人の気も知らないで。

 一体何度目だろう。そう思ったのは。

 楓が悪友と言うたび、微塵も恋愛対象として見てくれないその態度に。
 そして、他の男が近づく度に。

 分かってる、オレが不甲斐ないからもうずっとこのままの関係だって。
 楓は何も悪くない。

 この気持ちを今さら伝えた所で、楓は困るだけだ。
 そうずっと思って来た。

 長谷川にも『拗らせすぎだ』とよく笑われたものだ。
 だけれど、今日楓はあのロクでもない男との結婚を匂わせるような独り言を呟いてた。

 あの男の妻になってもう本当に手の届かない所へ行くのだとそう思えば、どうせ永遠に失うならと。

 オレの中の抑えてた気持ちが急激に溢れてくる。
 多分もう止められない程に。

 もう誰にも渡したくない。
 この想いを伝えよう。

 例え、もうこの先楓の側に居ることができなくなったとしても。

 ―――― 金木犀の甘い香りに包まれて、文化祭が予定通り開催される。

 幸い天気は快晴。
 これから2日間、実行委員として忙しくなる予定。

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