Bella Notte
 ふと、私の後ろに視線をやって、ふ、と笑みを浮かべて。

 いきなり距離が近づいたと思ったら、そのまま強引に肩を抱き寄せられて。

「楓、お待たせ」

 爽やかな笑顔で甘い雰囲気を出されてしまい、思わず引き攣りながら、えぇっと……と口ごもった。

 ふと、耳元に唇を寄せて。
「……追い払いたいなら、話を合わせて」

 心地良い声だな、と素直に関心しながら、黙って頷いて。

「あっちで皆が待ってるから、行こう」

 そう言って、気づいたら囲まれていた周囲をすり抜けていく。
 何とか、人混みから抜け出して、一人掛けのソファにエスコートされて座った。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 ほっとして素の笑顔でお礼を言えば、何故か秋口さんは固まってしまった。

「……いい……」

 ボソッと何かを呟いたけれど、全部は聞こえない。
 言葉の続きを待っているけれど何もなくて。

「秋口さん、私はもう大丈夫なので、戻られてください。」

 こちらを眺めている職場の同僚の方々が少し離れた後ろに見えたので、会釈をして。

 「いや、俺は、わ、私は、その、……」

 先程までスマートにエスコートできる大人の男性なのだと感心していたのだけれど、どもるその口調が少し可愛く思えてしまった。
 思わず微笑む。

 ちょうどその脇を、飲み物を運ぶウエイターが通りかかったので声をかけてグラスを受け取る。

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