Bella Notte
 少しかすれた声が耳元でしたと思ったら、後ろからきつめに抱きしめられて今度は完全に身動きが取れない。

 観念して、逆らわずに。
「おはよ、さく……」

 言い終わらないうちに、言葉ごと唇を桜井の熱い唇で塞がれた。

 だんだんと深くなるキスに翻弄されながら、気づけばいつの間にか。
 桜井の大きな手が左手をシーツに縫い付けるように指と指を絡められる。

(このままじゃ、また流されてしまう)

 何とか隙を見て距離をとろうと頑張るけれど、身体に力が入らない。
 すると桜井が私の仕草に気付いたみたいで、いったん止めてくれる。

 上がるお互いの吐息越しに、生理的に潤んでしまった瞳を隠す事も出来ずに、懇願する。

「……お願い、すこし、まって」

 そう言うのに、桜井は、ふ、と優しく微笑んでおでこをくっつけた。

「もう、随分と待ったよ。楓、これ以上待てない」
 切なげな声色と表情でそう言って、キスから首筋を辿り熱い吐息と共に優しく私に触れた。

「観念して」

 その感覚は今までに感じたことのない、甘い余韻。

「俺の事、好き?」

 ふと、お互いの時が止まる。
 好き。
 桜井の事は小さい頃から知っていて、好きだ。
 それは、家族に抱くような親愛の情で、男女のそれとはずっと違うと思っていた。

 いつも傍にいてくれて、それで……。
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