偽白
一章
5月の麗らかな日差しが降り注ぐ、暖かい早朝。
校門前には既に数台の高級車が停めてあり、私の乗った車もその空いたスペースにゆっくりと停車した。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「ありがとう。行ってきます」
宝生家専属の運転手にお礼を言って車内から一歩足を踏み出すと、辺りに咲き乱れる薔薇の花弁が風に舞い、私の頬をふわりと撫でる。
小中高一貫私立のここ薔林学園。
全国屈指の進学校であるこの学園は、学費が他校に比べて高額で、生徒達は難関試験を突破した裕福な家庭の子ばかりだった。
かく言う私も名の知れた会社の社長を父にもち、高等部一年生になるこの年まで不自由なく通わせてもらっている。
「おはよ、宝生」
「九条君。おはよう」
2組の教室に入ると、隣の席の彼がにこりと挨拶してくれて、途端に周りの女の子達が色めき立つのが見て取れた。
無理もない、九条君だもの。
成績優秀で運動神経抜群、おまけに性格も良くて顔も格好良いものだから、初等部時代から男女問わず絶大な人気を誇っていた。
「宝生」
「え?」
「あのさ、今度――――」
「おはよう九条君」
九条君が何か言いかけたところで、背後から高飛車な声が聞こえてくる。
この声は……
「おはよう姫澤」
「今日もいい天気ね。あ、宝生さんもおはよう」
たった今私の存在に気付いたとでも言うようにわざとらしく笑いかけてきた彼女は、すぐさま九条君と私の間に入り込み、こちらに背を向けた。
「ねえ九条君、今日の移動教室隣に座ってもいい?」
「いいよ、特に誰と座るか決めてないし」
「本当?嬉しい。あ、そう言えばね――――」
いつの間にか二人で会話を始めてしまい、何となく居心地が悪くなる。
姫澤さんは、昔から九条君が好きだった。
それは態度を見たら一目瞭然で。
そして、彼女は私の事が嫌いだった。
父の会社と姫澤さんの親の会社は同業で、業界内の一位二位を争うライバル企業。
薔林学園に入学してから陰で何かと嫌がらせをされてきた私は、正直彼女が大の苦手だ。
クラス替えまでのこの一年、波風立てずに過ごせたらいいけれど。
少しばかりの不安を胸に抱えながら、私は一時間目の授業の準備に取り掛かった。