ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

第10話

 水島白乃(しの)

 俺の前年度の教え子。
 温和で、穏やかで、素直で、感情がわかりやすい。

 だから——

 水島が俺に好意を持っていたことは、ずっとわかっていた。
 わざと目を逸らしたり、近づこうとすると逃げたり。

 教師だった頃の俺は、理性的でいようと徹底していた。

 俺が教師になった理由——

 それは、親がともに教員で、その道を半ば強制されたからだ。
 反発する気力もなかった俺は、ただその流れに身を任せた。
 笑顔という仮面の下で、ずっと足りない“何か”を探していた。

 ——そんなある日、親が勝手に決めた見合い話が持ち上がった。

 今までは適当にごまかしてきたが、それも限界がきていた。
 諦めて、その女と付き合うことにした。
 相手は俺を気に入り、結婚するつもりでいる。

 容姿も教養も性格も申し分ない。
 俺も、このままその流れに身を任せようとしていた。

 ——その日は、放課後、誰もいない教室でぼんやり外を見ていた。

 その時、教室に誰かが入ってきた。

 水島だった。

「あ、夏雄先生、お疲れ様です……」

 水島は相変わらず目を合わせようとせず、自分の席に向かって忘れ物を取る。

 帰ろうとしたその瞬間——

 椅子に足を引っかけて、転んだ。
 ドジな奴だな、と思いながら手を差し伸べようとすると、水島は床に倒れ込んでいた。

「すねを打ちました……」

 半泣きだった。

 笑いそうになったのに——

 なぜかその瞬間、心臓が強く脈打った。
 今でもその感情がなんだったのか、よくわからない。
 ただその無防備な姿を見て、たまらなく欲しくなった。

 その時は、自分の感情を押し殺して水島を見送った。
 でも、あの時の表情や倒れ込んだ姿は、ずっと脳裏に焼き付いた。

 それからというもの、自然と目で追うようになっていた。
 気づいた水島は戸惑っていた。
 でも、その戸惑いすらも、俺の中の“何か”を満たしていた。

 この感情が何なのか、今もはっきりとはわからない。

 ただ、ひとつだけ確かなことがある。

 ——俺は、水島を手に入れたいと思っていた。

 あの日から、ずっと。
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